【食品スーパー業界の2015年2月期決算】実情は必ずしも「好調業種」とは言えない

2015年04月14日 20:32

 ■大都市圏と地方とで地域間格差が大きい

 小売業の食品スーパー業界主要各社の2015年2月期本決算がほぼ出揃った。

 日本スーパーマーケット協会など3業界団体が加盟285社のデータを集計した「スーパーマーケット販売統計調査」によると、全国的には消費増税後、既存店総売上高が前年同月比でマイナスだったのは増税直後の昨年4月の3.5%減だけで、5月以降、今年2月まで10ヵ月連続でプラスを維持し続けている。その間、既存店売上高がずっとマイナスだったコンビニとは対照的だ。しかしエリア別では、首都圏を抱える関東地方と中部地方は全国データ同様に5月以降は一度もマイナスになっていないが、逆に近畿地方は4月から2月まで一度もプラスになっていない。北海道・東北地方は4月以降マイナスの月が9回もあり、中国・四国地方は7回あった。

 その地域間格差は上場している大手食品スーパーの2月期決算にも反映していた。首都圏に店舗網を持つ食品スーパーは、いなげや<8182>は3月期決算だが、通期見通しは営業収益4.2%増、営業利益12.1%増、当期純利益10.4%増。店舗改装に加え高品質、高単価の商品が好調に売れている。今年3月1日にイオン<8267>傘下でカスミ、マックスバリュ関東(非上場)と経営統合してユナイテッドスーパーHD<3222>になったマルエツは、営業収益6.6%増、営業利益68.9%増、当期純利益58.3%減。カスミは営業収益7.2%増、営業利益22.9%増、当期純利益8.2%増。埼玉県を中心に店舗展開するベルク<9974>は営業収益11.1%増、営業利益5.7%増、当期純利益11.8%増。東武ストア<8274>は売上高2.2%増、営業利益10.7%増、当期純利益17.2%減。関西が本拠の食品スーパーだが首都圏店舗も多いライフコーポレーション<8194>は新店に加えて改装店の業績も好調で、営業収益9.4%増、営業利益42.4%増、当期純利益37.3%増。しかし店舗網が近畿地方とその周辺に限られるオークワ<8217>は既存店売上高が6%減で営業収益は6.3%減、営業利益1.9%減。不採算店の閉鎖も響き当期純利益は黒字化してもわずか4700万円だった。業界団体の販売データの近畿地方の不振と符合する。

 概して言えば大都市圏、特に首都圏の大手食品スーパーの業績には2ケタの営業増益、2ケタの増収が並び、その好調さが業界全体を引っ張るという構図になっている。

 一方、地方の食品スーパーをみると、北海道のマックスバリュ北海道<7465>は格安スーパー業態の「ザ・ビッグ」が好調で営業収益6.9%増、営業利益15.2%増、当期純利益13.2%増で最高益を更新したが、中国・四国地方の天満屋ストア<9846>は営業収益5.1%減、営業利益25.6%増、当期純利益136.6%増。西日本一帯に「イズミ」「ゆめマート」など食品スーパーを展開するイズミ<8273>は店舗改装効果が出て営業収益4.1%増、営業利益4.2%増で最高益だったが、当期純利益は0.1%減、イズミと同じく広島が本拠のマックスバリュ西日本<8287>は営業収益1.7%増、営業利益3.0%増、当期純利益2.0%減。九州のマックスバリュ九州<3171>は売上高3.7%増、営業利益は原材料費の高騰で仕入れ原価が上昇したため35.6%減。不採算店舗の減損損失も響き当期純利益は83.9%減だった。地方の食品スーパーは増収増益でも首都圏の同業と比べると業績で見劣りし、売上高(営業収益)、営業利益、当期純利益がマイナスになったところも散見され、大都市圏との差がはっきりとついている。株式市場で首都圏の食品スーパーの銘柄がもてはやされているのを見て「食品スーパーは好調業種」と速断してはいけない。

 ■「地方創生」政策で地域間格差は縮まるか?

 食品スーパーでは、マルエツ、カスミ、マックスバリュ関東の首都圏の食品スーパー3社が経営統合したユナイテッドスーパーHDは今期、営業収益6600億円、営業利益120億円、当期純利益500億円を見込む。合併前の3社の前期の営業収益合計と比べると増収になる見通し。ベルクは営業収益6.2%増、営業利益5.5%増、当期純利益4.5%増と好調が続く見込み。東武ストアは売上高2.5%増で、前期も2ケタ増益だった営業利益は42.1%増の大幅増益で、前期は2ケタ減益だった当期純利益は184.9%の大幅増益というV字回復を見込んでいる。前期が好調で大幅増益だったライフコーポレーションは、単体の営業収益5.2%増、営業利益1.6%増、当期純利益1.7%減を見込む。競争激化による採算悪化を懸念している。前期が減収大幅減益と悪かった近畿圏のオークワは営業収益0.7%増、営業利益9.5%増、当期純利益大幅増の7億円を見込んでいる。苦戦からどこまで立ち直れるか。

 地方の食品スーパーは、マックスバリュ北海道は営業収益3.5%増、営業利益2.6%増、当期純利益5.0%増を見込む。2ケタ増益の前期よりも減速するが増益は維持する見通し。天満屋ストアは営業収益1.2%減で前期に続き減収だが、営業利益は5.3%増で前期よりも増益幅を圧縮する。当期純利益は96.8%増で大幅増益は維持する見込み。イズミは営業収益11.8%増の2ケタ増収、営業利益9.8%増で増収増益幅拡大。前期は減益だった当期純利益は4.3%増を見込んでいる。マックスバリュ西日本は営業収益2.5%増、営業利益11.0%増の2ケタ増益。前期は減益だった当期純利益も9.7%増を見込む。マックスバリュ九州は売上高2.7%増。採算を改善し、前期は大幅減益だった営業利益は13.9%増、前期は83.9%減だった当期純利益は224.8%増と、V字回復以上を見込んでいる。

 地域格差の是正は第三次安倍内閣の経済政策の最も重要なテーマで、「地方創生(ローカル・アベノミクス)」はアベノミクス第2弾の大きな柱と位置づけられ、2015年度本予算では約1兆円が予算化された。各自治体では政府の「地方創生交付金」を活用する「まち・ひと・しごと創生総合戦略」の具体策として、地域限定のプレミアム付き商品券のような消費刺激策を打ち出している。そんな追い風も吹いている食品スーパー業界が今期、業績の大都市圏と地方の格差をどこまで縮められるか、注目したい。(編集担当:寺尾淳)