「忘れられる権利」というものがある。インターネット上に過去に書き込まれた誤った情報、プライバシー情報によって将来にわたって不利益を被ることが問題となっており、デジタルデータの「忘れられる権利」が注目されているという。データが忘れられる(削除されるべき)かは「知る権利」「表現の自由」も考慮して判断されるべき難しい問題で、データの作成者や内容に応じた対応が必要だ。
そこで、中央大学 理工学部教授竹内健氏のグループは、インターネットにおけるプライバシー保護のため、「忘れられる権利」を実現するメモリシステムの開発に成功した。この研究は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業であるエネルギー・環境新技術先導プログラム「IoT時代のCPSに必要 な極低消費電力データセントリック・コンピューティング技術」において実施されたもの。
今回の研究では、SNSなどに書き込んだデータの寿命をあらかじめ設定することで、指定した時点で自動的にデータが壊れるメモリシステムを開発した。この新システム(Privacy-protection Solid-State Storage(PP-SSS)System)は、データが記憶されるメモリ上のデータを、ユーザーが決めた時点で自動的に壊し再現不能にすることで、より高いプライバシーを担保する「忘れられる権利」を実現する。
具体的には、フラッシュメモリのエラー確率が高い精度で予測できる特徴を利用し、データをメモリに書き込む時点で寿命に応じた所定の数のエラーを意図的に注入することで、指定した時点でデータは壊れ、誤りが訂正できないようになる。
これまで、HDDや磁気テープ、DVDなど機械部品を使った従来の記憶媒体では、機械部分の疲労や破壊の予測が難しいため、データの寿命の予測や制御は困難だった。一方、このシステムは半導体製品であるフラッシュメモリを記憶媒体として採用し、リーク電流によるフラッシュメモリのデータ破壊(エラーが生じていく)の予測が可能であることを利用することで、データ寿命を自在に制御できます。このことから半導体メモリの新しい市場ができることも期待されるという。
ネット社会の進化によってこんなところにも歪が起こっている。「忘れられる権利」を考えなければならない社会とは、いいのか悪いかわからない。(編集担当:慶尾六郎)