会社乗っ取りの謀略がからむ、株主総会の委任状をめぐる暗闘とは

2012年07月02日 11:00

 経営難ゴルフ場を再生させた2つの会社

 6月28日午前10時、東京のホテル・ニューオータニで、アコーディア・ゴルフの株主総会が開かれた。出席した株主は727名。同じ日に開催されたオリンパスや大王製紙、前日に開催された電力9社の株主総会とはまた違う意味で、注目された総会だった。

 アコーディア・ゴルフは国内最大級のゴルフ場運営会社で、年商は約867億円。今年3月末現在、ゴルフコース132カ所、ゴルフ練習場19カ所を保有する。1981年に開場した群馬県藤岡市のゴルフ練習場がルーツで、ゴールドマン・サックスの投資ファンドの資金力をバックに経営難に陥ったゴルフコースを次々と買収。「ゴルフ事業革命」と称してビジターのプレーフィーも食事もリーズナブルにし、若者や女性も気軽にプレーできることを売り物に事業を拡大した。かつての「社用族ゴルフ」のバブルがはじけて会員権ビジネスが崩壊して空いたすき間をつき、ゴルフというスポーツ自体を楽しみたい層に的を絞ったビジネスモデルで成長した企業と言える。

 それとほぼ同じビジネスモデルの後発企業にPGMホールディングスがある。営業収益約708億円。今年3月末現在、子会社を通じてゴルフコース121カ所を保有している。同社は2002年に倒産した地産グループのゴルフ事業を企業再生ファンドのローンスターが買収して設立され、持株会社として経営難のゴルフ場運営会社を次々と買収しては傘下におさめてきた。ここもビジターのプレーフィーを安く設定し、特に女性ゴルファーの拡大に力を入れている。

 昨年11月、パチンコ・パチスロ機メーカーの平和が経営多角化を目的に同社株をTOBで買収し、発行済株式数の8割以上を保有した。その平和は2007年8月、完全子会社化したパチスロ機メーカー、オリンピア(非上場)のオーナー、石原ホールディングス(非上場)が株式交換で経営権を取得しているので、現在のPGMホールディングスの実質上のオーナーはオリンピアということになっている。このオリンピアが、昨年のPGMホールディングスに続いてアコーディア・ゴルフも傘下におさめ、国内約2400カ所のゴルフコースの1割以上を保有して独占的地位を築こうとする「大いなる野望」を抱いたことが、今回の株主総会の騒動の背景にある。

 内部工作でお家騒動を起こし会社を乗っ取る謀略か?

 発端は、昨年1月にゴールドマン・サックスとの業務提携を解消して大きな後ろ盾がなくなったアコーディア・ゴルフで起きた「お家騒動」だった。今年4月、竹生道巨社長(当時)が親しい女性のために会社のカネを私的に流用していると秋本一郎専務(当時)が告発し、竹生氏は引責辞任すると発表した。そこへ「株主委員会」なるものが現れ、コンプライアンス(法令遵守)を盾に「前社長が有給で会社に残るのはおかしい」「第三者委員会をつくって徹底調査せよ」などとクレームをつけてきた。この株主委員会を代表者が、同社の1.8%の株を持つオリンピアの兼次民喜社長だった。

 交代したアコーディア・ゴルフの鎌田隆介社長には株主委員会の正体とその狙いがお見通しだったようで、「敵対的買収に備えて第三者割当増資を検討している」と発言。これが火に油を注ぎ、株主委員会は「経営体制を刷新すべし」と株主総会で独自に株主提案の取締役候補8名と監査役候補3名を擁立し、会社提案の取締役候補、監査役候補の選任に反対する構えを見せた。そして5月24日、オリンピアの兼次社長は記者会見を開き、他の株主に働きかけて株主委員会の提案に賛成する委任状(プロキシ)を取り付ける「委任状争奪(プロキシ・ファイト)」を始めると表明した。

 もし、株主総会で株主委員会が提案した取締役が賛成多数で選任され、その数が取締役の過半数を超えれば、株主委員会(=オリンピア)の息がかかった者が多数派を占め、取締役会でPGMホールディングスとの経営統合を決議させることも可能になる。きっかけとなったお家騒動も、アコーディア・ゴルフは「竹生元社長を告発した秋本元専務はPGMホールディングスとの経営統合を画策していた」と疑いの目を向けている。もしそれが本当なら、まず内部工作でお家騒動に火をつけ、「コンプライアンス」の正義を旗印にして会社を乗っ取るという、戦国時代の国盗り顔負けの謀略に他ならない。敵対的買収のような派手な総攻撃を仕掛けなくても、相手の重臣に自分たちの味方を送り込めば、国も城もやすやすと手に入る。そんな野望を、社外取締役候補に元最高裁判事や元金融庁長官を据えて「狙いはコンプライアンス」とカモフラージュする手口も、実に巧妙だった。折悪しく東京国税局による法人税申告漏れの指摘も判明し、株主委員会は「刑事告発、株主代表訴訟も辞さない」と怒りのパフォーマンスを繰り返し、株主にアピールした。

 委任状集計結果の翌日持ち越しは異例中の異例

 そして迎えた運命の6月28日、株主委員会は「1万1000名の株主から委任状を取り付けた」と豪語し、情勢は「五分五分」と伝えられる中、アコーディア・ゴルフの株主総会は始まった。質疑や投票が終わったところで、問題の取締役の選任議案は、意外な事態に発展した。議長の鎌田社長はこのように発表する。「会社提案の取締役9名中、鎌田社長を含む7名は選任が確実な見込み。監査役2名も選任が確実な見込み」「会社提案の残りの2名と株主提案については、委任状の集計に正確を期すため、明日の午前10時に発表」
「会社提案の2名と株主提案の1名が過半数を超える可能性がある」

 会場はどよめく。怒号の中、株主総会は取締役、監査役の選任議案を持ち越して、翌日までの「休憩」に入った。株主総会の議案の最終結果がその日のうちに判明しないのは異例中の異例。かつて「総会屋」が元気だった頃の長時間に及ぶ「マラソン総会」でも、そんな例はなかった。しかも、集計結果が出る前に、会社提案が取締役会の多数派を制し、株主提案のほうは多くても1名にとどまるだろうという「勝利の予告」までやった。

 株主委員会が強く反発したのは言うまでもない。コメントを出し、質疑を一方的に打ち切ったこと、議決権数などの告知がないこと、委任状の集計に株主委員会側の代理人の立ち会いを拒否したことなども挙げ、「株主総会の手続きは著しく不公正」だと非難。「委任状、議決権行使書の閲覧請求を行う」「株主総会決議取消訴訟を含むあらゆる必要な法的措置を講じる」と息巻いた。さらに同日深夜には、「不公正極まりない会社側の行為によって総会の手続きが異常事態となっている。我々は今後、委任状等の閲覧謄写請求を行い、株主総会決議取消の訴えも辞さない」と、勇ましいトーンのリリースまで出している。

 もし「ニセ委任状」とわかったら法廷闘争で墓穴を掘ってしまう

 一夜明けた6月29日午前10時、株主総会は再開され、議長の鎌田社長は委任状の集計結果を発表した。会社提案の取締役9名、監査役2名は全員が賛成多数で選任され、株主提案の取締役8名、監査役3名は全員が否決された。こうして2日に及んだ株主総会は幕を閉じた。

 プロキシ・ファイトの結末は、取締役も監査役も誰も送り込めなかった株主委員会の完全敗北で、会社乗っ取りの野望は、コンプライアンス体制を問い直すという表向きの目的もろとも打ち砕かれた。総会前にオリンピアの兼次社長は、たとえ負けても株の保有は続け、コンプライアンスのための戦いはやめないと話している。「正義の味方」の旗は簡単には下ろせない。「株主総会決議取消の訴えも辞さない」というから今後、法廷の場で”延長戦”が続くのだろうか。

 だが、集計に手間取った理由は、両方に委任状を出した株主、総会に出席しながら委任状も送った株主がいるなど”疑問票”が1000枚以上に及んだからだという。委任状に押印があっても、株券の電子化が行われたために銀行の届出印のように印鑑を照合する方法がないため、「ニセモノ」が交じっていても本人に聞かないと確認のしようがない。

 株主委員会が法廷闘争に打って出たら、被告になるアコーディア・ゴルフの申し出で1000枚以上ある疑問の委任状1枚1枚について証拠調べが行える。そこでもし株主から「株主委員会に委任した覚えはない」という証言がゾロゾロ出てきたら、「正義の味方」の株主委員会は墓穴を掘ってしまうのだが、「絶対にそれはない」と自信をもって言えるだろうか?