2015年、トヨタがアクセルを踏み込んだ領域、そしてステアリングを切った先にあるもの

2015年12月31日 16:24

Toyota FC Bus

来たる東京オリンピックに備えて、2016年度からの都営バスへのFCバス導入するために、東京都内で、トヨタ自動車と日野自動車は、2015年7月24 日から30 日にかけて、燃料電池バス(FCバス)の実証実験を実施した

 1997年にトヨタが発売した世界初の本格的量産型ハイブリッドカー(HV)プリウスは、世界の自動車史に残るモデルだ。初代は、“21世紀のクルマとは?”というテーマで1993年に始まった“G21プロジェクト”で「燃費をカローラの2倍にする(28km/リッター)こと」を目標に開発がスタートした。

 以来、トヨタの最優先課題は、HVパワーユニットのラインアップを確立し、その採算性を確保することだった。それ目標を、ほぼ達成した今年、遂に燃料電池車(FCV)「MIRAI」発売した。次ぐ課題は水素社会の普及とFCVのラインアップ拡大だ。そこには、2020年の東京オリンピックへ向け、水素社会を世界にアピールする狙いがある。

 2020年の東京オリンピックでは、IOCの正式な決定でトヨタがトップパートナーとなった。トップパートナーは、IOCのスポンサー契約の最上位に位置し、宣伝活動において公式スポンサーであることや、オリンピックのロゴマークをワールドワイドで使用できる。パートナーは1業種1社に限定され、現在コカ・コーラやマクドナルドなどの世界的な企業がパートナー契約をしている。日本企業では、パナソニック、ブリヂストンに次いで3社目だ。

 これを受けてトヨタは東京五輪の公式車両としてMIRAIほかのFCVを走らせ水素社会の到来をアピールする。実験が始まっているのは、まず観客を運ぶFC路線バス、そして選手や関係者が会場まで移動するFC大型バスだ。東京都交通局は、水素社会の実現に向けて2020年の東京五輪開催までに計画的に燃料電池バス100台以上の導入を目指すとしている。2016年度からの都営バスへのFCバス導入に向けて、トヨタ自動車と日野自動車は、2015年7月24 日から30 日にかけて、東京都において燃料電池バス(FCバス)の実証実験を実施、一応の成果を収めた。

 また、8名乗車程度の多人数乗車ミニバンでもFCV開発が進み、間違いなく五輪で活躍する。2013年の東京モーターショーで展示したHVタクシー専用車も実用化されそうだ。

 また、“ZEV規制”に対応するトヨタの戦略は“石橋を叩いて渡る”こととなりそうだ。北米の“ZEV規制”、つまりゼロ・エミッション車(排気ガスを一切排出しない自動車)規制は、カリフォルニア州などがエリア内で販売する自動車メーカーに一定の割合(当面10%で、徐々に比率がアップする)のZEVを販売しなければならないという規制だ。2014年現在、カリフォルニア州で年6万台以上販売するメーカー6社(クライスラー、フォード、GM、ホンダ、日産、トヨタ)が対象。だが、2018年には、中規模メーカーを含んだ、ほぼすべてのメーカーが対象になる。

 そこで、日産やVW、BMWなどは、電気自動車(EV)の開発を進めて、このZEV規制に対処しようとしている。しかし、トヨタは、電気自動車に本気で取り組んでいないようだ。ここでも、トヨタは「燃料電池車」でZEV規制を中央突破する構えのようだ。ただ、今年モデルチェンジした「プリウス」のプラグインハイブリッド車(PHV)を2016年にも発売する。このPHVで当面を凌ぐ。

 こうした電気で動く自動車に必須なのが電池だ。この分野でもトヨタは“石橋を叩いて”という姿勢をとってきた。これまでトヨタHVのほとんどが搭載する電池は、ニッケル水素電池だった。ホンダや日産のHVは、ほぼリチウムイオン電池なのに、FCVのMIRAIさえもニッケル水素電池を搭載している。トヨタの考える“信頼性とコストパフォーマンス”において、現在のところニッケル水素電池が優位だとしている感があるのだ。ただ、モデルチェンジした新型プリウスには、一部グレードながら遂にリチウムイオン電池が搭載された。ただし、グレードによって信頼性とコストパフォーマンスで優位なニッケル水素も併用しているあたりにトヨタらしさが出ている。

 再度言うなら、トヨタの世界戦略には、2020年の東京オリンピックへ向けてステアリングを切った先に、日本の水素社会構築がある。(編集担当:吉田恒)