がん治療は大きく手術、放射線治療、抗がん剤治療に分けられるが、放射線の一種「重粒子線」を使った治療は、日本が世界をリードしてきた分野だ。そこにまた最新機器が登場した。千葉市の放射線医学総合研究所(放医研)は、東芝と共同で超電導磁石を使うことで従来より小型化した回転型の照射装置を開発した。
重粒子線治療は一般的な放射線治療で用いられるX線に質量がないのに対し、炭素イオンという粒子を高速かつピンポイントでがん病巣にぶつける。正常な周辺組織に当たりにくいことから副作用も少なく、強力な治療であるため通院回数も少なくて済む。しかし、治療装置が大がかりであるため建設・設置が難しいという難点があった。現在は保険の効かない先進医療として、国内5施設で行われている。
今回開発されたのは、重粒子線を調節する磁石として世界で初めて超電導磁石を使うことで、従来の常電導磁石を使っていた機種の半分程度の大きさである長さ13メートル、重さ300トンと小型化した照射装置。また、従来機では重粒子線の照射位置の調節のために患者が横たわる台を傾けていたが、新機種では患者を動かすことなく重粒子線の照射口を回転させることで360度、どの角度からも正確に狙うことができる。東芝によると、開発には5年をかけ、放医研との契約金は40億円だが、開発費は非公開だという。放医研では2016年度内にこの装置を使った治療を始める予定。
放医研では「装置の小型・軽量化により今後、重粒子線治療の普及を目指したい」としているが、普及にはクリアしなければならない問題もある。国が指定する先進医療からの格下げが議論されているのだ。先進医療とは、新薬や新技術に対して「将来的な保険導入のための評価」を行う期間として、治療本体は自費だが、前後の検査や入院などは公的保険でまかなうというシステム。その中から重粒子線は「他の治療法に比べて優位性を示せない」という理由で外されようとしている状況だ。
これに対し、一部医療現場からは判断基準とされたデータの作成法に問題があるなどとして強い反発が起きている。患者側とすれば民間生命保険の先進医療特約に入っていれば300万円ほどかかる治療費をそれで補填できるが、もし自由診療になった場合は全額自己負担しなければならず、「普及」に待ったがかかりかねない。重粒子線の技術では世界をリードする日本。東芝では、新開発の照射装置で欧米に展開していきたいとしているが、足元の普及がどうなるのか、注目される。(編集担当:城西泰)