細胞の代謝とがん化を司る細胞内エネルギーセンサーとは 産総研らが発見

2016年01月12日 08:50

 全ての生き物は、生きるためにエネルギーを必要とする。そのため生物の体を構成する一つ一つの細胞には、エネルギー変化に応じて、適切な応答を起こす仕組みが備わっているという。例えば、“生体のエネルギー通貨”として広く知られる ATPの細胞内の濃度変化は、複数の“ATPセンサー”タンパク質により感知されて、細胞の代謝や遺伝子発現を変化させる。

 一方、細胞で主にタンパク質の合成やシグナル伝達の原動力となるエネルギー物質として働くのが“GTP”。GTPの細胞内濃度はATPとは独立に制御されており、細胞内のGTP濃度を検知し、細胞機能を制御する“GTPセンサー”は未だ発見されていなかった。また、そのため細胞がどのようにしてGTP濃度を検知し、その濃度変化に応じて適切な細胞応答を引き起こすのかは、これまで不明なままだった。

 今回、高エネルギー加速器研究機構(KEK) 物質構造学研究所、シンシナティー大学医学部、産業技術総合研究所(産総研)創薬分子プロファイリング研究センターによる合同研究チームは、細胞内のエネルギー物質 “GTP(グアノシン三リン酸)”の濃度を検知し、細胞の働きを制御する “GTPセンサー”を世界で初めて発見した。

 タンパク質合成やシグナル伝達の原動力となるGTPの濃度を正しく保つことは、細胞機能の維持に不可欠だという。同チームは、脂質キナーゼの一種PI5P4Kβが細胞内のGTPセンサーであることを発見、PI5P4KβとGTPとの複合体の立体構造解析などによってそれを証明した。

 決定した立体構造に基づきGTPセンサー機能を持たないPI5P4Kβを人工的に作成し、細胞内に戻したところ、細胞がGTP濃度の変化に正しく応答できなくなった。さらに同チームは、PI5P4KβのGTPセンサー機能が、がんの増殖にも関与することを明らかにした。

 今回の発見で、細胞がGTP濃度を感知し、応答する仕組みが初めて明らかとなった。また本来、正しい細胞の応答を担う仕組みが、がんでは、むしろ病気の悪化に関与していることが明らかとなったとしている。細胞内GTPエネルギーの制御機構については、その濃度を検知するGTPセンサーが不明であったこともあり、これまでほとんど研究されてこなかったという。

 今回の発見を契機にして、多くの研究者が参画し、生命のエネルギー利用の仕組みや病気について、より深い理解が進んでいくことが期待される。さらにGTPエネルギー研究分野の発展に伴い、関連するがんや代謝疾患などの新たな治療法が見いだされることも期待されるとしている。(編集担当:慶尾六郎)