近年、「コンセプト」を冠に打ち出したビジネスが注目を集めている。
コンセプト〔concept〕とは本来、「概念」を表す言葉であるが、大辞林に「広告で、既成概念にとらわれず、商品やサービスを新しい視点からとらえ、新しい意味づけを与えてそれを広告の主張とする考え方」とあるように、日本語の用法としては「概念」よりもむしろ「こだわり」や「視点」といった意味合いが濃いようだ。
たとえば「近日「北欧」をコンセプトにした雑貨店を開店します」といったような場合、その雑貨店の扱っている商品はもちろんのこと、店名や装飾品、内外装・ホームページ、広告などに、北欧のムードをかもし出すような演出が予想される。
「コンセプト○○」という呼び方は様々な業種業界で使用されているが、最も頻繁に、そして一般的に使われているのは、自動車業界と飲食業界かもしれない。
自動車業界の場合、自社が近い将来に販売する車そのものではなく、デザイン的、あるいは機能的にその企業の将来を指し示すような実験車ないしは試作車を「コンセプトカー」と呼んでいる。ショーに参考出品することで市場の反応をうかがったり、ラインナップのブランディングを行なうのだ。
アメリカセレブの間でも人気の高いハイブリッドカーのプリウスでお馴染みのトヨタ も、世界各地のモーターショーで、数多くのコンセプトカーを発表している。例えば、中国市場専用に開発された攻撃的なフォルムのハイブリッドカー「雲動双擎(ユンドンショワンチン)」や、新規ユーザーの掘り起こしを狙って開発されたスモールクラスのグローバル戦略車「TOYOTA Dear~チン~」、昔懐かしいレースアニメを髣髴とさせる、未来的だけどどことなくノスタルジック感が漂うフォルムのスポーツ4WDハイブリッドカー「CS&S」、軽自動車よりも短いワゴンタイプの次世代都市型スタンダードヴィークル「Hi―CT」など、ハイブリッドカーを軸に様々な生活スタイルに向けた「こだわり」のある車を発表しているのだ。
また、1907年から消防車両事業を展開し、ポンプ車からはしご車、コンビナート向けの消防車や空港用の消防車、さらに世界初の消救車など、幅広い消防車の開発・製造・販売を行なっているモリタホールディングス も、「林野火災用消防車 コンセプトカー」を開発し、話題を呼んでいる。モリタの「林野火災用消防車 コンセプトカー」は2011年、世界三大デザイン賞といわれるアメリカの「IDEA賞」の「Commercial And Industrial Products 部門」において最高賞の金賞を受賞、また、同じく世界三大デザイン賞のひとつ、ドイツの「レッドドット・デザイン賞」の「Mobility部門」において、最高賞のベスト・オブ・ザ・ベストを受賞している。
近未来的なデザインもさることながら、100年以上に渡って消防車両事業一筋に歩んできた、モリタグループの技術・開発力を存分にアピールすることに成功している。実際に販売される商品でなくとも、メーカーの技術力や方向性をユーザーに示す意味で、コンセプト製品は重要な意味を持つ。いわば、そのメーカーの顔のようなものだ。自動車業界に限らず、コンセプト製品を展開している企業や業種も増えている。コンセプト製品を見れば、その企業だけでなくその業界の未来も見えてくるのだ。(編集担当:川端敏明)