一昔前は、インターネットを介して商品を購入することに警戒心や不信感を抱いていた人は多かったが、Amazonをはじめとする大手ECサイトの台頭によって、その垣根は取り払われ、今や企業間でもECサイトを通して取引を行うことが珍しい時代ではなくなってきた。
また、最近ではメーカー自身がECサイトを運営して、直販の形で購入できる形が増えてきており、これまで仲介業者や代理店などを通して行われてきたBtoBの取引も大きく変わろうとしている。アメリカなどではすでに、メーカーが仲介業者や代理店を通さずに自社のECサイトなどから直接顧客に対して販売するDtoC(Direct to Consumer)のビジネスモデルが広く浸透しており、売上を拡大している事例は少なくない。そして日本でも、このメーカー直販のECサイトによるDtoCモデルが徐々に普及し始めている。
例えば、国内の半導体業界では初めて、ローム株式会社が2025年7月23日に自社製品を取り扱う大規模オンライン直販サイト「ROHM Online Store」をオープンしている。同社のECサイトでは、アナログLSIや、パワーデバイスを中心とした半導体素子はもちろん、モジュール製品や同社の創業製品である抵抗器まで、約20000種類もの正規品を取り扱っており、製品ラインナップが国内の同業種では類を見ない規模を誇る。メーカー直販サイトなので、新製品が漏れなくラインアップされるほか、品切れリスクが軽減される見込みだ。中には1個単位から購入できる製品もあるので、必要な数量だけを購入することができるというのも、企業の開発者やエンジニア、小規模の事業者、ものづくりを嗜む個人にとっても利用しやすく、ユーザビリティに優れている。
さらに特筆すべきは、この「ROHM Online Store」は、同社が昨年リリースした技術サポートフォーラム「Engineer Social Hub™」と連携し、技術サポートから購入まで一貫提供していることだ。以前は、ローム社の製品を小規模購入するためには主に仲介業者や代理店を通す必要があり、問い合わせも同様に仲介業者や代理店を通して行うのが主流った。しかし、「Engineer Social Hub™」を活用することで、問い合わせや有人チャット機能、製品別ディスカッションなど、ロームエンジニアから直接サポートを受けることも可能なので安心だ。「Engineer Social Hub™」そして「ROHM Online Store」を利用することで、幅広い顧客層にローム製品を検討・購入できる機会が創出される。
直販ECサイトを活用したDtoCビジネスモデルは、日本では主にアパレルや化粧品、コスメブランドなどが中心に拡大しているが、今後はロームのような専門的な業種・分野でも増えてくるのではないだろうか。大手ECモールや中間業者を介在した場合に比べ、ブランドの認知度向上や集客、問い合わせや返品・交換などの顧客対応に手間とコストがかかるというデメリットはあるが、それらをクリアさえすれば、新しい販路が開拓できる。DtoCビジネスモデルの普及によって、日本のビジネスや流通が大きく変わるかもしれない。(編集担当:石井絢子)