近年、注目を集めているパワーエレクトロニクス。殊、昨年の震災以降、電力不足・エネルギー不足といった問題を受けて注目度が一気に高まったと同時に、劇的な低消費電力化を実現するSiC(シリコンカーバイト)という材料を用いたSiCパワー半導体が開発されたことなどから、半導体市場では、製品化や研究が加速度的に進められている。
パワー半導体デバイスとは、電流を流したり(オン)止めたり(オフ)する半導体素子(最小単位のパーツ)のこと。このパワー半導体が注目を集めている理由は、従来使われていたSi(シリコン)に変わりSiCという材料を用いたパワー半導体が開発され、劇的な低消費電力化を実現した所にある。
一般的に電流のオンとオフを切り替える際、一瞬で切り替わることは無く、スイッチング損失と呼ばれる電力損失が生じる。また、電流を流している際にも、物質の電気抵抗により導通損失と呼ばれる電力損失が発生している。これらの損失を劇的に減少させる素材としてSiCが注目を浴びているのである。このSiCパワー半導体は、かねてから研究はなされていたものの、製品化等、実用化されたのはごく最近。半導体素子全てにSiCを用いたパワー半導体デバイスが量産化されるようになったのは、京都の半導体メーカーであるロームが今年三月に開始したのが世界初である。従来のSiパワーモジュールと、ロームが開発したフルSiCパワーモジュールとを比較すると、電力損失が85%も低減できるというから、注目を浴びるのも納得ではないだろうか。
またSiCの特徴は、電力損失の劇的な低減だけでなく、Siと比較して大幅な小型化を実現できる上に、高温下での動作も可能といった点にもある。例えば、EVや風力発電機器に用いられるモータを制御する際、現在は、モータが高温になることやサイズの問題から、電力制御システムを別に設置してケーブルで接続している。しかし先のフルSiCパワーモジュールを利用すれば、全てをモータ内に納めてしまうことができ、サイズやコスト・効率といった面で多大な貢献をすることが可能だという。
低消費電力化や小型化などに伴い様々な機器への搭載が進められるSiCパワー半導体は、我々の生活にも大きな影響を与える。しかし、専門用語が飛び交い、半導体業界に対する基礎知識に乏しい一般の人々にとっては難解な世界であることも否めない。こうした状況を受け、ロームは「日本が誇る『パワー半導体』の可能性」と題したプレスセミナーを実施。一般の人々にパワー半導体の仕組みや有用性を正しく認知してもらうべく、業界の第一人者を招き、その媒介者となる報道関係者の理解を深める為に開かれたものである。我々の生活に直接関係してくるだけなく、矢野経済研究所によると、2017年には市場規模が2011年の1.7倍と予測されるなど、成長が期待される分野でもある。パワー半導体は日本が成長をけん引し得る分野であるだけに、一般の人々がより身近に感じられるための試みが、今後も広がることを期待したい。