北大と日立が認知症の早期診断に向けたAMED の医療機器開発プロジェクトを推進

2017年01月29日 19:03

 日本では、2025年に認知症の患者数は約700万人、認知症の前段階の軽度認知障害(MCI)の人数を含めると約1,300万人に上ると予想されている。中でも認知症の約半数を占めるアルツハイマー型認知症は、早期発見できれば、投薬などで症状の進行を抑えることができるため、早期診断方法の確立が期待されている。

 今回、国立大学法人北海道大学と日立製作所<6501>は、国立研究開発法人日本医療研究開発機溝(AMED)から「認知症の早期診断・早期治療のための医療機器開発プロジェクト」を受託した。2016年11月から2019年3月まで、北大と日立はQSM(鉄濃度定量の分布を解析する手法)とVBM(脳の萎縮の程度を客観的に評価する手法)を組み合わせたハイブリッド撮像・解析による、認知症の早期診断および検査時間の大幅な短縮が可能となる新たなMRI検査法の研究開発を共同で進める。

 北海道大学病院では認知症を含め、さまざまな病気のMRI 検査法の先端的な臨床研究を行っている。認知症の診療において行われるMRI 検査は、SPECTなどの核医学的検査と比較して放射線被ばくがないため、日常診療に多く用いられており、脳の形態変化から、アルツハイマー型認知症の診断を行う。特に、脳の特定部位の萎縮を客観的に評価するVBMは、軽度認知障害の診断やアルツハイマー型認知症への移行予測において、一定の有用性が報告されているものの、VBMだけでは認知症と確定することが難しいため、MRI検査のさらなる開発・発展が必要とされている。

 一方、日立は2011年から、新しいMRI計測技術の一つである、鉄濃度定量の分布を解析するQSMの開発を行ってきた。アルツハイマー型認知症では大脳基底核や扁桃体などの特定領域に鉄が沈着し、磁化率変化が生じることが報告されていることから、QSMとVBMを組み合わせた解析を用いることで、軽度認知症段階での診断、アルツハイマー型認知症への移行予測などにおいて、高い精度の検査が可能になると見込んでいる。

 しかし、現在のMRI検査においては、VBMに必要な高精細3次元T1強調像と、QSMに必要な磁化率強調画像の両方を取得するのに撮像時間が10分以上、解析時間に約20分かかる。また、患者の体動により撮像画質に劣化が生じるため、患者は10分以上、検査中に静止する必要がある。そのため、患者負担の低減および撮像画像の高精度化の実現には、検査時間の短縮が求められている。

 このプロジェクトでは、QSMとVBMの同時撮像ができるハイブリッド撮像法を新たに開発し、撮像時間を現在の10分以上から5分前後に短縮するほか、QSMとVBMのハイブリッド解析法を開発して、解析時間を大幅に短縮することも目指す。これらの撮像法や解析法は、北大病院において臨床研究を行いながら開発を進め、さらに、その他のMRI検査法の結果を組み合わせて、撮像画像を総合的に解析することで、健常人と軽度認知障害患者の鑑別診断、健常人とアルツハイマー型認知症患者の鑑別診断などにおいて、さらなる解析精度向上も図っていく。これらを達成することで、患者の身体的負担を低減させながら、高精度に検査を行い、認知症の早期発見に貢献する考えだ。(編集担当:慶尾六郎)