マウスを使ったVR環境の実験で脳科学を加速させる理研

2017年05月18日 07:11

画・マウスを使ったVR環境の実験て_脳科学を加速させる理研

VR環境は脳科学の分野でも行動課題として注目されている。最近は霊長類以外の小動物でもVRを認識できることが明らかになっている。今回の理研の実験がヒトの脳科学に与える影響は大きい。

 国立研究開発法人理化学研究所(理研)の脳科学総合研究センター精神生物研究チームはマウスにVR環境を与えて認識メカニズムの実験を行い、VR空間の目的地認識には実世界で場所の記憶に関わる脳部位の海馬活動が重要であることを発見した。

 VR環境は頭部を固定したマウスが空気で浮かせた発泡スチロール状の歩行装置に乗り、走るとその回転を光学センサーが検知、ワイド液晶モニターにVR空間が描き出される。目印のついた目的地に一定時間留まると水の報酬がチューブで与えられるというシステム。

 マウスが目的地に通過したことで報酬が貰える学習訓練を行い、その後、海馬にCNQXという神経細胞間の興奮伝達に関わる受容体阻害薬を微量注入して実験を行った。成功トライアルの割合は著しく低下したものの、注入後1?3日経過した回復後は注入前のレベルに戻った。

 また実験では正常マウスの他に自閉症関連関連遺伝子のひとつである「Shank2遺伝子」を欠損させたマウスを用意、正常マウスと同じ実験を行ったところ、実験課題においてshank2欠損マウスに成功トライアルの低下が認められた。

 この結果からVR空間の認識は実世界の空間認識に似た海馬に依存するメカニズムが働き、その学習には「Shank2遺伝子」が必要であることを示している。ただし、精神生物研究チームは「ヒトの自閉症患者はVR空間を認識できない」ことを必ずしも意味しているわけではない、と注釈をつけている。

 ヒトの自閉症には「Shank2遺伝子」以外にも多くの遺伝子要因が関わっており、自閉症患者全体の中で「Shank2遺伝子」に変異を持つ例は稀であると考えられているからだ。

 今回、理研が開発したマウス用のVRシステムと行動課題はVR空間を探索している時の脳の神経回路動作が直接観察できる。正常マウスと疾患マウスの神経回路の働きを比較することで、従来の手法では見つけることができなかった微細な脳の病変が明らかになる可能性が高まった。

 VRシステムによるマウスの行動課題開発は感覚・認知・酷・学習など広範囲にわたる脳科学の研究を加速させると期待が寄せられている。編集担当:久保田雄城)