むし歯をはじめとする歯科疾患は、罹患する人がとても多いという特徴があり、世界で最も多い疾患の 1 つ。そのため、国の合計の医療費(平成26年度国民医療費)は、歯科疾患は2兆9000億円と高く、これは循環器疾患5兆8892億円、がん3兆9637億円に次いで高額。特に65歳未満では循環器疾患(1兆 3063億円)、がん(1兆4992 億円)を超えて歯科疾患の医療費は1兆7185億円で最も高額である。
子どもでも、学校保健統計で最も多い疾患がむし歯だ。むし歯の罹患は、所得や学歴が低いほど多いという健康格差が存在することが知られている。しかしこの健康格差が、子どもの成長に伴ってどのように推移していくかの報告は世界的にも少なく、特に未就学児における報告は存在しなかった。
東北大学大学院歯学研究科国際歯科保健学分野の相田潤准教授のグループは、厚生労働省が実施している「21 世紀出生児縦断調査」の追跡データを分析し、親の教育歴による未就学児のむし歯治療経験の推移を明らかにした。
厚生労働省が実施する「21世紀出生児縦断調査」は、全国の2001年(平成 13年)1月10日~17日と7月10日~17日の間に出生した子どもを追跡している、日本のこの世代の子どもの代表的なデータとなるコホート研究である。これを用いて、35,260 人の子どもたちの過去1年間のむし歯治療を受けた割合を、2歳6か月から5歳6か月までの期間について分析をした。父母の教育歴を格差の計算に用いた。学歴は、高卒・中卒を低い学歴、大学等以上を高い学歴と分類して、格差勾配指数(Slope index of inequality)と格差相対指数(Relative indexof inequality )を算出して格差を評価した。
その結果、過去1年間のむし歯治療を受けた割合は、2歳6か月の時点で 10%未満だったが 5歳6か月の時点で30%以上に増加していた。親の教育歴が低い家庭の子どもでは、むし歯治療経験は8.5%から41.5%に増加、一方教育歴の高い家庭の子どもでは 5.6%から31.5%の増加だった。家庭の教育歴により、むし歯の健康格差が拡大傾向にあり、格差勾配指数でみると2歳6か月の時点で 4.13だったのが5歳6か月では 15.50 となり統計学的にも有意な格差拡大が認められた。
乳歯むし歯の罹患経験を反映する、むし歯治療経験の乳幼児期の成長に伴う格差の拡大が、国の代表データからも確認された。健康格差は、保健医療の知識の差というよりも、知識を行動に移せるだけの時間的・経済的な生活の余裕の差から生まれている部分が大きいことが分かっている。そのため、乳幼児健診の場や、幼稚園や保育園、学校での対策が格差の縮小に有効。むし歯予防の観点からは特に、平成24年から母子手帳に明記されている乳幼児期からのフッ化物塗布やフッ化物配合歯磨剤の利用や、砂糖を含む甘い飲み物をやめて麦茶にすること、親の仕上げ歯みがきをするなどの生活習慣も重要だとしている。(編集担当:慶尾六郎)