近年、X線透視撮影下で、体内に細い管(カテーテル)を入れて病気を治す比較的新しい治療法である画像下治療(IVR)等に携わる放射線従事者において、白内障等などの放射線障害の発症例が報告されており、「放射線白内障の閾線量の値は従来設定されていたものより低い」と考えられるようになってきた。このような背景のなか、2011年に国際放射線防護委員会(ICRP)は、水晶体等価線量限度を従来の150mSv/年から20 mSv/年へと大幅に引き下げる等という声明を発表し、2012年にはICRP 勧告を出し注意喚起を促した。またEU諸国では、2018年度までにその新勧告を取入れることになっている。このように、医療従事者の放射線防護、特に水晶体被曝評価の重要性が増していることに加えて、ICRPや国際原子力機関(IAEA)では、水晶体線量評価は、測定単位は3 mm線量当量を用いて、水晶体近傍位置で測定することを推奨している。
一方、現在の水晶体線量の測定方法は、頚部または胸部付近に装着した個人線量計によって測定され、測定単位は70μm 線量当量(または1 cm線量当量)で評価されている。そのため、放射線従事者の正確な水晶体被曝線量の測定評価は、現在は行われているとは言えなかった。
今回、東北大学大学院医学系研究科 放射線検査分野の千田浩一教授(災害科学国際研究所)と仙台厚生病院の芳賀喜裕非常勤講師(医学系研究科)らのグループは、IVRを行う放射線従事者の眼の水晶体被曝の実態を明らかにした。
研究グループは、水晶体被曝が特に多いと懸念されている IVR放射線従事者の水晶体被曝を、新しい線量計を使用し、より正確に測定評価を行った。半年間、医師と看護師それぞれ10名以上の IVR放射線従事者において測定評価した結果、適切な放射線防護を行わないと ICRP新勧告の水晶体線量限度の一つであ20mSv/年を超過する危険性があることを明らかにした。また頚部に装着した個人線量計による測定値は過大評価する傾向があること、装着の負担が少ない軽量型の放射線防護メガネによって、約60%の水晶体被曝に対する遮蔽効果が得られることなど多くの知見を明らかにした。
この研究によって、放射線医療従事者の白内障などの放射線障害の発症の防止に貢献することや、さらにIVRを受ける患者の水晶体医療被曝評価への展開が期待できるという。(編集担当:慶尾六郎)