人類が地上に降りた理由 京大が新仮説を発表

2017年07月24日 08:02

 ヒトの祖先が地上生活を始めた理由として、これまでおよそ900万年前以降の後期中新世に起こった乾燥化がアフリカの森林面積を減少させたことが挙げられてきた。人類がサバンナに進出して二足歩行が生じたとするサバンナ仮説によれば、ヒトは開放的な環境で地上生活を送ることで二足歩行をし始めたとされている。つまりサバンナへの進出と同時に地上で生活し始めたとの仮説である。しかし、近年発見された初期のヒト化石はすべて熱帯林や樹が少しまばらになった明るい森林という湿潤な環境で見つかっている。いずれの化石も直立二足歩行していた形跡が見られ、少なくとも部分的には地上生活をしていたと考えられる。このことから、樹から降り直立二足歩行を始めてもなお森林の外には出ていなかったと考えられる。しかし、なぜ森林生活で地上に降りる必要があったのか、その理由は不明なままだった。

 今回、京都大学の竹元博幸 霊長類研究所研究員はチンパンジーとボノボの観察を通して、森林内気温変化とその季節変化が、地上で過ごす時間を増やす主な要因であることを発見した。気温の低い雨季はほとんど樹の上で生活しているのに対し、暑い乾季には地上で過ごす時間が大きく増えることがわかった。一年中温暖湿潤な熱帯雨林の樹上で生活していたヒトの祖先は、乾季の出現と長期化によって森林内での地上生活が促されたと考えられるという。初期人類がなぜ地上で暮らし始めたのか、新たな視点を示す成果だとしている。

 研究では、季節変化の大きい森林に住むニシアフリカチンパンジーと、季節変化の少ない中央アフリカに住むボノボの地上利用時間を、森林内の気象および食物量の季節変化と照らし合わせた。両種とも、気温の高い日には一日の半分以上地上にいるのに、気温の低い日にはほとんど樹上で過ごし地上に降りてこない。寒い雨季には暖かい森林の上部(林冠部)、暑い乾季には涼しい地上で過ごして体温調節のエネルギーを節約していると考えられた。ボノボの住む森は気温の季節差があまりないため、季節ごとの平均を取ると、地上利用時間は少ないままで変化しない。つまり、森林内気温の季節変化が地上利用時間を増やす主な要因となっていることがわかった。

 初期人類化石の発見地は、 2,300万年前から1,800万年前には広くアフリカ大陸を覆っていた熱帯林の周辺部にあたる。およそ900万年前から800万年前に始まった乾燥化は、北東アフリカなど当時の熱帯林の周辺部から始まった。このことから、乾季の出現という季節の始まりがヒトの地上生活のきっかけだったと考えることができる。乾季が4ヶ月から5ヶ月以上続くと熱帯林は存続できない。森林が後退した後、樹が点在する開けた環境に適応できたのは、森林内で既に季節的な地上生活を経験していたからだと思われるとしている。(編集担当:慶尾六郎)