iPS細胞の異種間移植 マウスの脳でヒト神経細胞の培養に成功

2017年06月06日 06:38

画・iPS細胞の異種間移植 マウスの脳て_ヒト神経細胞の培養に成功

このほど東京大学大学院薬学系研究科の小山隆太准教授、池谷裕二教授らは、ヒトiPS細胞由来の神経細胞を、マウスの脳の海馬上で培養し、より成熟した神経細胞を作り出すことに成功。国際科学誌フロンティアズ・イン・ニューロサイエンスに掲載された。

 2006年に京都大学の山中伸弥教授が発見したiPS細胞は、体を構成するあらゆる細胞を作り出せることから、再生医療での細胞源になるとして急速に研究が進められてきた。患者自身の体細胞から作製する必要があったiPS細胞だが、他家由来のものも培養可能になり、最近では動物を利用してヒトiPS細胞を培養する研究が進められている。このほど東京大学大学院薬学系研究科の小山隆太准教授、池谷裕二教授らは、ヒトiPS細胞由来の神経細胞を、マウスの脳の海馬上で培養し、より成熟した神経細胞を作り出すことに成功。国際科学誌フロンティアズ・イン・ニューロサイエンスに掲載された。

 研究チームは、ヒトのiPS細胞から作った未熟な神経細胞を、マウスの脳の海馬領域を切り出したものに移植し一緒に培養した。その結果iPS細胞は海馬領域に特異的な細胞の形に分化。培養したiPS細胞由来の神経細胞を調べると、海馬領域に応じた細胞マーカーを発現していた。分化した神経細胞が、移植後に脳で機能するかが今後の課題となる。同研究を応用することでパーキンソン病や脊髄損傷などの脳神経疾患の治療につながる可能性がある。

 生きた動物の体内でヒトの体組織を形成することにも期待が寄せられており、マウスやブタなどを使った異種間移植の研究が進められている。米ソーク研究所やスペインのムルシア大などの研究チームは、ヒトiPS細胞をブタの受精卵に注入したものを雌ブタの胎内に移植。体の一部がヒトの細胞でできたブタの胎児に成長させている。また、東京大の中内啓光教授らは、ラットの体内でマウスの膵臓を成長させることに成功。糖尿病モデルマウスに移植するとマウスは糖尿病から回復することを実証している。さらには山中教授らの研究チームは、米スタンフォード大学での実験でヒツジの受精卵にヒトiPS細胞を注入し、ヒトの細胞を持つヒツジの胎児に成長させている。今後はブタへのヒトiPSの移植により、ヒトの膵臓を作製する目標があるとのこと。現在、国内では動物の受精卵にヒトiPS細胞を注入してから動物の胎内に移植する研究は禁止されており、文部科学省が解禁を検討中。

 こうしたiPS細胞研究の進展により、疾患などによって失った体組織や臓器の機能回復が可能になると考えられ、期待と注目度が高い研究分野だ。(編集担当:久保田雄城)