電気自動車(EV)を巡るニュースで自動車業界が世界的に賑やかで花ざかりだ。コトの発端は2016年10月に独連邦参議院(上院)が、2030年までにガソリンエンジン車およびディーゼルエンジン車、つまり100年以上連綿と続く“内燃機関”をパワーユニットとする自動車の販売を禁止する方針である旨の発表を行なったことである。
これにキッカケにして、今年7月になってフランスとイギリス政府が、2017年7月になって、いきなり「2040年までに“内燃機関”をパワーユニットとする自動車の販売を禁止し、EVなどCO2を一切排出しない自動車に置き換える」と宣言した。
これまでドイツやフランスなどの欧州自動車メーカーは、ディーゼルエンジン車を環境対応車のメインに位置付けてきた。が、ディーゼルエンジン車は、独フォルクスワーゲン(VW)の“排出ガス不正問題”で大きな後退を余儀なくされた。
ディーゼル車の将来が不透明になるなか、VWグループのアウディは、ディーゼル車で参戦してきた「ルマン24時間レース」などで有名な世界耐久選手権(WEC)から撤退せざるを得なくなった。「一連の問題から関心をそらすためにも、EVに傾注せざるを得なくなった」との見方が主だった見解である。
また、2014年9月から化石燃料を使わずに走る電気自動車(EV)の国際レース「フォーミュラE」が開催されている。「F1シリーズ」などを主宰する国際自動車連盟(FIA)が創設し、フォーミュラEホールディングスが運営する国際自動車レースだ。
先般、シーズン3を終えて、来季からアウディ・ワークスチームがフォーミュラEシリーズに本格参戦を発表。ドイツ勢ではメルセデス・ベンツも「2019~2020年・シーズン6」からの参戦を発表。BMWは現在、フォーミュラEに参戦している「アンドレッティ・チーム」を引き継いで、「2018-2019のシーズン5」から本格的に取り組むと表明した。また、前述の「ルマン24時間レース」に代表されるWEC優勝の常連であるポルシェもWECの最上位クラス「LMP」から今季で撤退。2019-2020・シーズン6から電動車のフォーミュラEに参戦することを決めた。このポルシェの参戦で、フォーミュラEに独・四天王が顔を揃えることとなったのだ。
■賑やかな電気自動車の話題だが、課題は極めて多い
こうしたEV推進を目指すニュースに触れていると、まるで20年後にはガソリン車が、この地上から絶滅するかのような錯覚に陥る。が、電気自動車を巡る問題は、それほど簡単ではないようだ。
確かに電気自動車はトヨタやホンダが発売した燃料電池車(FCV)と並び、走行時に排ガスを一切出さない“究極の環境対応車”と呼ばれ、米カリフォルニア州のZEV(ゼロエミッション車)規制にも承認されるクルマだ。しかし、電気をつくる、その泉源にまで遡ると別の側面も見えてくる。
フランスのように電源別発電電力の構成比(2014年)が、石炭・石油・天然ガスで5%、原子力で77%、水力・再生可能エネルギーその他17%で、化石燃料による電力は5%に過ぎない。8割近くが原子力起源の電力で、これがクリーンな電力であるとするならばEV普及にも弾みがつく。
しかしながら、日本のように、化石燃料86%、原子力0%、再生可能エネルギー14%と、化石燃料で発電した電力が圧倒的に多く、現時点EVを普及させても温暖化対策にならない。自動車の走行段階でCO2排出がゼロであっても、発電によってCO2を大量排出するのでは何の意味も無い。
加えて、中国や米国、ロシアやドイツなどは安価な燃料を求めて環境負荷の高い石炭を使った旧式の火力発電所を稼働させている事例も多数ある。
現在、EVを巡る課題は多い。満充電からの走行距離の問題、バッテリー寿命などの技術的問題、給電施設などインフラの問題などだ。まだまだ普及段階に入ったとはいえない。だが、将来技術開発が進めば、そうした問題点は“大きく解決されてゆく”とする楽観的な見方もある。
しかし、EV普及の前提となる大きな課題のひとつは、電池の性能向上だ。EV普及の条件として「1回の充電で500km以上の走行が可能なこと」が指摘されている。だが、安全性を確保しつつエネルギー密度を高めて小型化し、充電時間の短縮を同時に実現するとなると今以上にコストアップは避けられない。「化学に依存する電池は半導体などと異なり、急速な性能向上は難しい」とする専門家の意見もある。
自動車ユーザーにしてみると“電池の劣化”も大きな課題だ。現在、ハイブリッド車(HV)を数多く生産するトヨタのモーター駆動用電池は5年のメーカー保証で、以降の電池交換には10数万円の部品代プラス交換工賃が必要だ。HVに比べて数倍の容量であるEVの電池交換の値段が気になるところである。
かように電気自動車の普及には、高いハードルが幾つも並んでいるのだ。こうしたなかで、単純にクルマの電動化だけに頼らない環境対応を模索する動きにも注目が集まっている。そのあたりの話題については項を改める。(編集担当:吉田恒)