フォーミュラカーのレースといえば最高峰のカテゴリー「F1-GP」を思い浮かべる。2014年9月から化石燃料を使わずに走る電気自動車(EV)の国際レースが開催されている。それが「フォーミュラE」で、国際自動車連盟(FIA)が創設し、フォーミュラEホールディングスが運営する。「フォーミュラE」というだけにマシンは、フェンダーの無いオープンホイールデザイン。バッテリーの電力でモーター駆動するため、極めて静かな環境でレースが実施される。その特徴ゆえ、レースはモナコやパリ、ユーヨークなど、すべて市街地の公道コースで開催される。
シーズン3を迎えた今期「2016-2017 フォーミュラE」は、昨年10月9日に香港で第1戦が開催、今年7月30日にカナダ・モントリオールで最終戦を終えた。
初年度、シリーズ1は実験的で、「スパークルノーSRT_01E」のワンメイクレースだった。が、シーズン2からチーム独自のパワートレーンを製造・搭載することが可能となった。搭載電池は200kgのリチウムイオン電池だが、容量に限界があるため、ドライバーはレース途中で2台目のマシンに乗り換える。これも技術開発の進展から2018-2019シーズンから“乗り換え”方式は廃絶される予定だ。
現在は、電力容量の問題から“決勝レースで完走を目指す”と全速力での走行が難しい。電力消費量を睨みながら慎重なドライブがドライバーに要求される。一方、ファステストラップ叩き出したドライバーには、ベストラップポイントが与えられる。そのため、レース序盤のアクシデントなどで上位進出が絶望的になったドライバーが、電欠リタイヤ覚悟でファステストラップを狙い全速アタックを行なうケースも見られ、なかなか迫力のあるバトルが展開されている。
■フォーミュラE開発にとって重要なパワーエレクトロニクス
この「フォーミュラE」のパワーユニット開発において、パワーエレクトロニクスは極めて重要だ。一般的には半導体素子を用いた電力変換などを扱う工学であると定義されている分野で、「フォーミュラE」においては、パワーエレクトロニクスよる加減速時のパワーマネージメント、つまり直流電流を変換してモーターを制御するインバータ開発が重要である。さらに、減速時にブレーキで熱エネルギーに変換して減速していたが、その運動エネルギーを電気エネルギーに変換して回生する技術も必要だ。そこで必須となるのがパワー半導体だ。
そのため、チームは技術開発パートナーとして有力な電子機器メーカーと手を結ぶ。今シーズンは、英国で大々的に記者発表を行なったジャガーチームが、日本のパナソニックとタイトルスポンサー契約を結び「パナソニック ジャガーレーシング」として発足した。また、京都の半導体メーカー、ロームもヴェンチュリー・フォーミュラEチーム(Venturi Formula E Team)と3年間のテクノロジー・パートナーシップ契約を締結した。同社は、マシン駆動の中核を担うインバータに世界最先端のパワー半導体であるSiCパワーデバイスを提供し、マシンの小型・軽量化、高効率化をサポートする。
日本のエレクトロニクス先端企業が「フォーミュラE」のパワーユニット開発の根本であるパワーマネージメント分野でその技術を競う。今後はパワートレーンだけでなく、バッテリーなども含めた更なる設計の自由度がアップするはずだ。ますます電子部品サプライヤーの重要度が増す。
シーズン3を終えて、FIA フォーミュラE選手権のチャンピオンに輝いたのは、アウディが支援するチーム 「チームABTシェフラーAudi Sport」のドライバー、ルーカス・ディ・グラッシだ。ルーカス・ディ・グラッシは、ルノーのドライバーで昨シーズンの覇者、セバスチャン・ブエミに10ポイントの差をつけられた状態で、モントリオール戦に臨んだ。結果、7月29日(土曜日)のモントリオール第11戦で見事ポール・トゥ・ウィンを決め、翌日曜日の最終戦では7位に入ってシリーズタイトルを奪取、シリーズを締めくくった。
ルーカス・ディ・グラッシは、「フォーミュラE」が初開催された2014-2015年に総合3位、そして昨シーズンは2位となり、ついに今年3代目のチャンピオンとなった。12レースが開催された2016-2017シーズンにおいて3回のポールポジション、2度の優勝、7回表彰台に挙がった。
■アウディに続きBMW、メルセデス、そしてポルシェも
アウディは、2017/2018年シーズンからチーム「ABTシェフラー」と協働でアウディ・ワークスチームとしてフォーミュラEシリーズに本格参戦することを計画している。
ドイツ勢ではメルセデス・ベンツが7月24日に、「2019~2020年シーズン6」からの参戦を発表。BMWは現在、フォーミュラEに参戦している「アンドレッティ・チーム」を引き継いで、「2018-2019シーズン5」から本格的に取り組むと表明したばかりである。
メルセデスは「フォーミュラE」参戦に合わせて欧州で人気の高い「ドイツツーリングカー選手権(DTM)」から2018年で撤退。F1とフォーミュラEをレース活動の柱に据えるそうだ。フォーミュラEを車両電動化技術の実証実験の場とする予定だ。
また、ルマン24時間レースに代表されるWEC(世界耐久選手権)優勝の常連であるポルシェもWECの最上位クラス「LMP」から今季で撤退。WEC-LMPクラスは事実上ハイブリッドカーのレースだが、2019-2020シーズン6から電動車のフォーミュラEに参戦することを決めた。このポルシェの参戦で、フォーミュラEに独・四天王が顔を揃えることとなった。
モータースポーツはカテゴリー毎に100年以上にわたって各社が先端技術を競い合い、ファンを魅了してきた。しかし今、そのイベントに地殻変動が起き、従来は格下とみられた「フォーミュラE」の先に見える美味しそうな“果実”を巡って活気づいてきた。
シーズン5となる2018-2019年には日本で「フォーミュラE」開催との噂もあり、日本のホンダや日産も参戦を匂わせている。日本メーカーがモータースポーツに押し寄せる電動化の波にどう対応するか、注目が集まる。「フォーミュラE」、その先の量産車電動化という“果実”に向けて徐々に国内でも人気が高まりそうな気配である。(編集担当:吉田恒)