近年、農林漁業等の6次産業化が注目されている。6次産業とは、農業経済学者の今村奈良臣氏が提唱した造語で、農業や林業、水産業などの第1次産業が、生産のみならず、食品加工や流通販売などにわたって多角的な業務を展開する経営形態のことをさす。
第1次産業は基本的に作物や収穫物を「市場に卸す」ことで収入を得ているが、気候などの影響によって不作になったり、豊作すぎたりすることで、市場への卸価格は左右され、収入は安定しない。しかし、6次産業化すれば、調理・加工・パッケージングして「直営販売」することができるので、今までよりも比較的安定した収入が見込めるようになる。さらに流通から販売まで直営することで中間コストを削減できるのも大きなメリットだ。
6次産業化の成功例の一つが、タレントの田中義剛氏が北海道で営む花畑牧場ではないだろうか。これまで酪農業で生産された商品は、生産者から一旦、農協などに卸され、そこから加工会社を経て加工、パッケージングされたのち、販売店に並ぶという流通が一般的だった。
しかし、同社は生産だけでなく、加工、商品化まで行ったうえで直接、物産店やネットやテレビの通販を利用して、消費者へ直接商品を届ける経営を行った。同社の看板商品でもある「生キャラメル」を筆頭に、花畑牧場製品はブランド化にも成功している。
それならば、すべての農林漁業が6次産業化すればいいのにと思うが、実はそう簡単にもいかない。6次産業化するためには、生産以外にも、商品の品質管理や、工場での製造員や直営店での販売員などを務める人材が必要になる。つまり、これまでのように家族親族だけの経営ではなく、法人化が必要不可欠なのだ。また、経営資金や設備投資費用など、初期費用として多額の資金も必要になる。花畑牧場のように通販を利用しようとすれば、流通の開拓や、それなりの宣伝費、広告費も必要だ。
そして、何よりも大きな課題となるのが「品質管理」だ。とくに農業の場合、栽培や加工・流通情報などを管理し、安定した商品供給体制の構築が必須となる。自社の商品をブランド化しようとすれば、今まで以上にシビアで繊細な管理が必要となってくる。
そこで6次産業化を進める生産者の圃場では今、 ICT (情報通信技術)を導入し、積極的にデジタルデータ化を進める動きが増えている。ここでボトルネックとなっているのが栽培工程の管理だ。栽培工程は天候などの状況に左右されやすい上、数メートルで大きく変化する広範囲の土壌情報を同時に取得することや、土壌環境のリアルタイム計測は困難だった。
ところが先日、この問題を解決し、農業の6次産業化を大きく後押しする技術が、ロームグループのラピスセミコンダクタから商品化された。
同社が開発した土壌センサユニット「MJ1011」は、これまで同社が培ってきたセンサ技術、低消費電力技術などの強みを活かしたもので、直接土の中に埋め込むことで、EC(電気伝導度)、pH(酸性度)、地中温度、含水率などの土壌環境指標を同時にリアルタイムで測定することを業界で初めて可能にした製品だ。農業圃場管理において重要な土壌環境情報の見える化に貢献する。
また、定量的にデータを蓄積することで、栽培や管理へのフィードバックができるため、経年データの比較や将来予測などによる生産性向上および品質管理への貢献、販売店への安定した出荷などの効果が期待できる。
農林漁業はこれまで、最先端技術とは一番遠いところにある業界のイメージだった。しかし、これからは、ICTやIoT ソリューションを上手く取り入れ、融合することで、6次産業として新しいビジネスの可能性が大きく広がることだろう。(編集担当:藤原伊織)