三井物産と伊藤忠商事は、大手鉱物資源会社・BHPビリトン(豪・英)と共同で運営する西豪州鉄鉱石事業において、港湾出荷能力の拡充を目的とする先行投資を行うことを決定したと発表した。先行投資総額は約706億円で、その内三井物産が約49億円、伊藤忠商事が約57億円となる見込みである。
今回の投資は、西豪州の外洋に鉄鉱石出荷設備を、内陸にストックヤード及び鉄道支線等の鉄鉱石供給設備を新設し、年間100百万トンの港湾出荷能力を追加する計画に対するもの。本計画関連設備の稼動開始は2016年上期を予定しているという。また並行して、拡張後の港湾出荷能力に見合った鉱山・鉄道拡張のエンジニアリングスタディも進行中であり、港湾出荷能力を更に年間100百万トン拡張するオプションも検討しているとのことである。
金属の中で最も多く生産・消費されていると言われる鉄。その源となる鉄鉱石であるが、日本国内では採石できず、ほぼ100%を海外からの輸入に頼っている。そして、輸入した鉄鉱石を高品質・高機能な鋼材へと加工することで、日本の主力産業である自動車や電気産業、造船業等を支えている。しかし現在、鉄鉱石の生産は資源メジャーによる寡占が進んでいるという。寡占が進めば、途上国や新興国の発展に伴う需要拡大と同調した、鉄鉱の価格高騰が危惧される。鉄鉱価格の高騰は鋼材価格の値上がりにつながるため、日本の主力産業へのダメージは甚大なものとなるであろう。その為、安定した価格で鉄鉱石を確保できるよう、日本の鉄鋼メーカーや商社が、ブラジル・豪州・チリなど海外での権益取得を急いでいるのが現状である。
今回の三井物産と伊藤忠商事による西豪州鉄鉱石事業に対する投資は、これまでの既得権益を保持するものと言えるであろう。昨日発表された第3四半期決算によると、トヨタやホンダといった日本を代表する自動車企業が、相次いで前年同四半期比で70%以上の減益となっている。鋼材が価格高騰すれば、震災やタイの洪水などで疲弊しているこれら日本企業に、更なる追い打ちをかけるに等しい。一般人にとって「既得権益」という言葉は、政治の腐敗を象徴するようなマイナスイメージが伴うものである。しかし今回の投資のように、日本を支える権益獲得や既得権益の保持であるならば、今後とも積極的に行ってもらいたいものである。