今や、私たちの生活に欠かせないものとなりつつあるスマートフォン。総務省の通信利用動向調査によると、個人のスマートフォンの保有率は2011年の14.6%から、2016年には56.8%と急成長しており、5年のうちに4倍もの急激な普及を遂げていることが分かった。また、博報堂DYメディアパートナーズのメディア環境研究所が2017年6月20日付で発表した最新の調査では、スマートフォンの所有率は約78%にまで伸びているほか、タブレット端末も4割を超えている。スマートフォンはともかく、タブレット端末も15歳から69歳までの5人に2人近くが所有しているというのは驚きだ。
モバイル機器がこれだけ普及してくると、身近な悩みとしてあがってくるのが充電環境の改善だ。スマホにタブレット、ノートPCやその他のモバイル端末まで加えると、それぞれの充電器やACアダプタで家庭のコンセントは渋滞を起こしてしまう。家族全員分となれば、尚更だ。また、機器ごとにいちいち充電器を使い分けるのは非常に煩わしいし、見た目のスマートさにも欠ける。
そこで今、注目を集めているのが、充電コネクタを共通化できて5Vから20Vの幅広い電圧で最大100Wまでの受給電を可能にするUSB電力拡張規格「USB Power Delivery」(以下USBPD)や、充電台に置くだけで充電が可能になる「ワイヤレス給電」だ。現在、スマートフォンなどのモバイル機器やPC、ACアダプタなどでUSB PDの仕組みを搭載した製品が続々と登場しており、有線充電とワイヤレス給電、2 つの充電方式を同時に採用する動きも増えている。
ところが、USBPD のような幅広い電力に対応しようとすると、いくつかの問題がある。一つは昇降圧の問題だ。例えば5Vの充電器から2セルバッテリーを充電するには8.4Vの電圧が必要となり、システムに昇圧機能を付加しなければならない。逆に、20Vから2セルバッテリーを充電するには降圧機能が求められる。また、2 つの充電方式を同時に採用するには、それぞれに対応した充電IC と外付け部品を搭載し、マイコンで充電方式の切り替えを制御する必要がある。USBPDやワイヤレス給電をもっとスマートに活用し、導入をさらに促進させるためには、これらの課題を克服する必要があった。
そんな中、電子部品大手のロームが先日、業界で初めて充電系統の2 入力に対応した昇降圧充電IC「BD99954GW」と「BD99954MWV」を開発したことで注目を集めている。同ICは、1 セルから4 セルバッテリーを対象に、昇降圧制御により3.07Vから19.2V の充電電圧を生成し、最先端USBPD システムにも対応するバッテリー充電IC だ。さらに充電アダプタ判定機能も搭載しているので、マイコン制御なしに充電の切り替えが可能となっている上、USBPDだけでなく、現在最も普及しているUSB BC1.2もサポートしている優れものだ。
USB 充電、ワイヤレス給電、AC アダプタからの充電など、複数の充電方式の同時実装を簡単に実現することができれば、充電環境の利便性が飛躍的に高まる。充電器の煩わしさから解放される日も、そう遠くはなさそうだ。(編集担当:藤原伊織)