ロームが開発した最新の電池監視LSI「ML5245」。マイコンによる制御を必要としないスタンドアロンタイプで、リチウムイオン電池パックの開発期間短縮、高信頼化、安全性向上に貢献。中国電動自転車市場をメインターゲットに展開する。
スマートフォンや電気自動車などの普及に伴って、リチウムイオン電池の市場が拡大を続けている。総合マーケティングビジネスの株式会社富士経済の調査によると、リチウムイオン二次電池がけん引する二次電池の世界市場は2016年見込で 6兆7034億円。2020年予測では8兆1456億円にまで成長するとみている。背景としては、ニカド電池やニッケル水素電池(小型)などからの需要シフト及び、中国の電動自動車需要の拡大によって、今年から来年にかけて多くの自動車メーカーが電動自動車のラインナップを拡充させるとみられること、また、ノートブックPC向けやスマートフォン向けが停滞する一方でウェアラブル端末向けの増加や充電式電動工具や電動アシスト自転車などのモータ駆動用途の増加が有望であるとみられている。産業用途としては、航空・宇宙分野、太陽光発電の蓄電用などへの期待値も高い。
しかしながら、残念なことに日本のリチウム電池メーカーの業績は芳しくない。昨年、リチウムイオン電池を世界で初めて商品化したソニーが、電池事業を175億円で村田製作所に売却すると発表した。また、これまで市場をリードしてきたパナソニックも、世界シェア1位の座を韓国企業のサムスンに譲り渡してしまった。さらにこれまで30年間にわたって首位争いを繰り広げてきた日韓企業に成り代わるべく、中国メーカーも台頭してきている。車載用リチウムイオン電池ではすでに、中国国内の需要拡大を背景に世界最大のシェアを獲得しているという見方もある。
とはいえ、信頼性の高さにおいては、やはり日本製品に未だ圧倒的な分がある。
需要の拡大に比例して、リチウムイオン電池の発熱や発火、爆発等の問題も話題に上ることが多くなった。世界各地で発火問題をおこし、生産中止となったサムスン製のスマートフォン「Galaxy Note 7」の件はまだ記憶に新しく、また今年2月に中国からオーストラリアへ向かう国際便の飛行機の機内でノイズキャンセリングヘッドホンが突如爆発した事件もリチウムイオン電池が原因とみられている。リチウムイオン電池がこの先も継続的に使用されるためには、コストだけでなく、今後益々信頼性が重要視されるようになるだろう。スマートフォンやイヤホンなら軽度な火傷程度で済むかもしれないが、電気自動車や電動自転車で発火や爆発などが起こってしまうと、人命にも関わる事態だ。
リチウムイオン電池自体の原因としては、製造上の欠陥や構造、設計上の不備、ユーザーが与えたダメージや充電器による問題など、多岐にわたる。市場競争が過熱する中、粗製乱造されるのを食い止めるのは至難の業だ。しかも、エンドユーザーには、使用されているリチウムイオン電池が粗悪品であるかどうかを知る術はない。メーカー側も事故を起こしたいはずはないし、それなりの対策を講じているだろうが、それだけに不測の事態には事後対応するしかないのが現状だろう。
そこで今、業界で注目を集めているのがリチウムイオン電池監視LSIだ。
電池監視LSIの役割は、リチウムイオン電池の過充電、過放電、過電流、異常温度などを検出し、制御したり、強制的に停止させることだ。
ロームグループのラピスセミコンダクタは4月12日、この電池監視LSIの最新技術として、とくに電動自転車など電動モータの駆動力で移動する電動軽車両「LEV」に最適な13セル対応リチウムイオン電池監視LSI「ML5245」を発表した。同製品はマイコンによる制御を必要としないスタンドアロンタイプの電池監視LSIとなっており、専門的で工数のかかるマイコンのプログラム開発を不要にできるため、電池パックの開発を容易にし、製品の開発期間短縮に貢献する。また、電池監視LSIの基本機能に加えて、温度検出や過熱防止、強制OFF、セル電圧読み出しと、電池監視だけでなく周辺回路の機能も取り込むことで、システムの信頼性、電池パックの安全性をより高めたという。さらに、長期保管時の電池消耗に影響するパワーダウン時の低消費電流0.1μAも実現した。同社では、メインターゲットとして需要の拡大する中国の電動自転車市場を見据えており、今後積極的に展開していく予定だ。
中国だけでなく、日本でも電動自転車の需要は伸びている。また、高齢化社会が進むにつれ、電動カートや電動バランス車などでのリチウム電池需要も増すだろう。安全性を実現した電池監視LSIの出番も増えそうだ。(編集担当:藤原伊織)