近年の日本では様々なハラスメントが職場内でのトラブルを引き起こしている。セクシャルハラスメントやマタニティーハラスメントは法律上に防止措置を義務付ける規定が存在する。しかしその一方、社会問題にもなっているパワーハラスメントについては防止のための法律が追い付いていないのが現状だ。
これを受けて厚生労働省ではパワハラ防止に関する措置を企業に義務付ける方針で法制化の検討をしている。労働政策審議会の分科会でも義務付けへの是非が問われたが、使用者代表の委員から上げられた声の中には根強い反対意見もあった。
パワーハラスメントを考えるうえで労働者側と使用者側との間にある考え方の溝は深い。労働者側の委員が防止措置に関する法整備を積極的に求めるのは当然と言えるだろう。使用される側にとって労働環境の重要度は高い。誰もが良好な環境の中で仕事に打ち込む事を望むが、使用者の態度が部下に威圧を与えるものであるなら精神的にも身体的にも負担を強いられる事となる。
一方で使用者側からは適切な指導とハラスメントの差異を外から見極めるのは困難との意見も出されている。確かにハラスメントとは被害者とされる側の感情によって大きく左右されるものだ。ある労働者にとっては業務上必要のある指導として捉えられる使用者の対応が、別のある労働者にはパワハラとして捉えられてしまうケースも実際にある。仮に防止措置が義務付けられて使用者の言動に法的な制限が設けられた場合、違反を恐れた使用者は業務上適正な範囲であっても労働者に対する指示や指導ができなくなってしまう恐れがあるだろう。
厚生労働省の調べによると2017年に相談窓口へ寄せられた労働相談のうち、パワハラに関する相談は7万件を超えていた。これは過去最多となる件数であるが、パワハラへの社会的な興味関心が高まっている事もこの背景の一つと考えられる。
同省が定義するパワハラには、暴力や脅迫の他にも人間関係を損ねる行為やプライベートの侵害なども含まれている。あるいは無理難題を押し付けたり、反対に本人の能力には見合わないような程度の低い仕事をさせたり、業務上の指示と見せかけた不当な要求も該当する。防止措置の義務化が検討される中、明確で具体的なパワハラの定義付けと、より大きな社会的関心が求められている。(編集担当:久保田雄城)