日本経済は現在、世界経済の回復やオリンピック関連需要を背景に景気回復の状況にある。有効求人倍率も1.64倍にも達し深刻な人手不足の状況だ。企業は人材確保と離職防止のため積極的に賃金引き上げを行っている。名目での賃金上昇傾向は従前からのものであるが、一方で賃金が上昇傾向の物価に追いつけず、実質賃金は低下傾向で推移してきた。
今年に入り物価が落ち着いてきたため実質賃金の伸び率はプラス傾向に転じたが8月に再びマイナスに転じ、直近9月もマイナスとなり再び実質賃金低下の兆しが出てきた。
7日。厚生労働省が毎月勤労統計調査の9月分速報を公表した。いわゆる名目賃金に当たる現金給与総額はフルタイムの一般労働者が34万7013円で前年同月比1.2%の増加、パートタイム労働者は9万6266円で0.5%の減少となった。パートタイム労働者の比率は30.6%で0.15ポイント前年同月より低下している。一般労働者とパートの両者を会わせた就業形態計では27万256円となり、前年同月比1.1%の増加で、名目レベルでは賃金の上昇は続いている。
一方、消費者物価の上昇を考慮した実質賃金の対前年同月比を見ると0.4%のマイナスとなっており、前月8月の確報値0.7%の低下に引き続いて2ヶ月連続の実質賃金低下となった。実質賃金は2018年に入ってから3月が0.7%のプラス、5月が1.3%、6月が2.5%、7月が0.5%と3ヶ月連続でプラスを持続し実質賃金上昇の兆しを見せていたが、8月から再びマイナス傾向となった。
実質賃金がマイナスに反転したのは消費者物価指数が上昇した影響が大きい。9月の消費者物価指数は総合で1.4%、生鮮食料品を除いたコアで1.0%、エネルギーも除いたコアコアでは0.4%となっている。総合での内訳はエネルギーが0.6ポイント、食料が0.47ポイントで中東情勢の不安定による原油価格の上昇傾向と夏の天候不良による農産物の不作による影響が大きい。
所定外労働時間の対前年同月比をみると9月が3.6%のマイナスと大きく減少しており、8月が1.9%、7月が1.8%のそれぞれマイナスで3ヶ月連続の減少となっており景気に頭打ち感も見られる。エネルギーや食料の高騰と景気の足踏み感の中で再び賃金が物価上昇に追いつけないという状況に戻ってしまったようだ。
来年には消費税増税が予定されているが、このまま実質賃金の低下傾向が続けば勤労者の増税感は強いものとなるであろう。実質賃金を上昇させる何らかの政策が必要だ。(編集担当:久保田雄城)