「年金2000万円不足」問題。金融審議会が答申した資産形成市場の未来像とは

2019年06月27日 06:51

画・「年金2000万円不足」問題。金融審議会が答申した資産形成市場の未来像とは。

6月3日の金融審議会の報告書が「年金が2000万円足りない」と誤解を受けた。その後イデコ加入は3割増しているという。「高齢化社会での資産形成市場のあり方」に関する報告書の本旨は何だったのか。

 6月3日、金融庁の諮問機関である金融審議会「市場ワーキング・グループ」が「高齢社会における金融サービスのあり方等」について会議を開催し、同日その報告書「高齢社会における資産形成・管理」が公表された。同グループは「国民の安定的な資産形成」のための市場のあり方を審議するグループで報告書はこれを取りまとめたものだ。

 報道によれば、この報告書が公表された直後からネット上で「年金が2000万円足りない」ことを政府が認めたという情報が拡散し、財務大臣が報告書の受け取りを拒否するという異例の事態にまで発展した。

 そもそも金融庁は公的年金の担当でもなく、当グループは「高齢社会における金融サービスのあり方等」金融産業の今後を検討する会議だ。

 この報告書は第1章「現状整理」、2章が「基本的な視点及び考え方」、3章が「考えられる対応」からなる。誤解が生じたのは1章「現状整理」の(2)「平均的収入・収支」の部分で、ここは議論の前提とするために現況を統計平均で単純図式化したものにすぎない。

 その内容は家計調査データから高齢夫婦無職世帯の実支出が約26万円で実収入が約21万円というものである。即ち毎月支出が収入を5万円超過している。これをもとに1章(3)で高齢夫婦世帯の平均貯蓄額約2500万円を示した上で「不足額約5万円が毎月発生する場合には20年で約1300万円、30年で約2000万円の取崩しが必要になる」と夫婦とも95歳寿命の想定試算があり、これが誤解につながった部分だ。ここでの支出26万円は最低必要額ではなく現況を示す統計平均である。

 報告書の本旨は2章以降の部分だ。ここでは1章で示した賃金上昇の減速傾向の中で「公的年金の受給に加えた生活水準を上げるための行動」として「長寿化に伴い資産寿命を延ばすことが必要」と説かれている。その上で「保有期間が5年ではマイナスリターンも発生するが、保有期間が20年になるとプラスリターンに収斂し、さらにそのバラつきも小さくなる」とし「長期・積立・分散投資の有効性」が強調されている。

 さらに、個々人のライフスタイルは多様であるため、「顧客本位の業務運営の徹底」を図り、多様なニーズに応えられようにするとともに、認知機能が低下する高齢者の保護を徹底する一方で、顧客側の金融リテラシーの向上を図り、受益者本位の金融マーケットを実現するという提言が報告書の本旨だ。

 日本人の金融リテラシーの低さは有名であるが、「年金2000万円」騒動が金融リテラシー向上を提言する報告書をめぐって起こったことは実に皮肉である。(編集担当:久保田雄城)