地球上にある数多くの環境問題の中でも、特に最近話題の中心になっているのは、海洋プラスチックごみ問題だ。今年の6月末に行われたG20大阪サミットでも、経済問題と同様に、海洋プラスチックごみ問題が最重要議題として上がっている。
イギリスのエレン・マッカーサー財団が世界経済フォーラムと協力して作成した調査報告では、海中に存在するプラスチックの重量が、2050年までに魚の重量を超えてしまうという予測を立てている。8億9500万トンの魚に対し、プラスチックの重量は少なくとも9億3700万トンにもなるという。この数値だけを見ても、迅速な対応が求められていることは明らかだ。
そこで現在、先進国の間で海洋プラスチック問題への対策の一つとして、プラスチック製ストローの廃止運動が広がりつつある。スターバックスやマクドナルド、デニーズなど世界的に展開する飲食チェーンをはじめ、日本でも、すかいらーくホールディングスや大戸屋ホールディングスなどで、プラスチック製ストローの段階的な廃止を発表しているところが増えている。この運動は今後も加速していくだろう。
しかし、その一方で「紙のストローはふやけて使いづらい」などの利用者の不満もある。スターバックスなどでは、ストローを使わなくても飲める新しいタイプの容器を開発するなどの対応を試みている企業もあるが、全ての飲食店で同様の対応をするのは不可能だ。プラスチック製ストローからの脱却を図るのであれば、利用者も率先して使いたくなるように、代替品のクオリティを高める必要がある。
この課題に対し、すでにいくつかの日本企業も取り組みを進めている。
例えば、今年6月に開催されたG20大阪サミットや関係閣僚会合などでも使用されて話題となったのが、木造注文住宅メーカーの株式会社アキュラホームが開発した、カンナ削りの「木のストロー」だ。木造建築に用いるカンナ削りの技法を応用して木を薄くスライスし、巻き上げた一本のストローは、見た目もシンプルで美しく、使い心地の評判も上々だ。新しい素材を開発するのではなく、間伐材を含む国産材を使用している点も面白い。国内のみならず、世界からも注目を集めている。
また、化学メーカーの株式会社カネカ〈4118〉は、100%植物由来の「カネカ生分解性ポリマーPHBHR」を開発し、海水中で生分解する認証「OK Biodegradable MARINE」を取得。生ゴミを堆肥にする際に使用する袋の素材として、ヨーロッパをメインに輸出しているほか、株式会社セブンイレブン・ジャパンと共同でコンビニでの展開を目指しており、今年8月には高知県内のセブンイレブン41店舗で試験的に導入を開始している。
国内の製紙業界2位の日本製紙株式会社〈3863〉でも、紙なのに酸素や香りを通さない「シールドプラス」という素材を開発。主に食品やトイレタリー分野のパッケージを中心に展開しているが、今後はストローなどへの活用も期待されている。
海洋には、すでに膨大な量のプラスチックが浮遊している。海洋プラスチックごみ問題は決して遠い未来の課題ではなく、今我々が直面している重要な問題なのだ。プラスチックごみ全体でみるとストローの占める割合なんて、ごくわずかだ。しかし、そのごくわずかな削減が、一本一本の積み重ねが、やがて大きな前進になる。千里の道も一歩から。提供する企業側からだけでなく、それを使用する利用者側からも、木のストローや新素材のストローに関心を持ち、それを積極的に求めることで、大きな問題解決の糸口になっていくのではないだろうか。(編集担当:今井慎太郎)