近い将来、今まで人間が判断していた事を人工知能が肩代わりする世の中が訪れるといわれている。身近なことのほとんどがインターネットを経由し、最適化されていく時代。今後10年から20年の内には、今ある仕事の半数近くが自動化されるという予測や、子ども達の65%は将来、現代には存在しない職業に就くだろうという予測もある。
そんな中、国や企業が発展し、維持していくためには「優秀な人材」は欠かせない。しかもその優秀さとは、以前のような偏差値だけで判断する優秀さではなく、産業構造の変化に対応し、その中で課題を設定し、論理的で創造的な思考を駆使できる柔軟な人材が求められる。
こうした流れを受けて動き出したのが、文部科学省を中心とした「小学校プログラミング教育」という取り組みだ。プログラミング教育というのは、何もパソコンを駆使した教育ということではない。これからの時代に求められる資質や能力を身につける為、論理的かつ創造的な思考を生み出す土壌作り、という意味合いが強い。
文部科学省が2019年9月に制定した「未来の学び プログラミング教育推進月間(通称:みらプロ)」など国の施策を受けて、民間企業も小学校でのプログラミング教育に積極的に動き始めている。
例えば、株式会社NTTドコモは、ロボット等のプログラミングを通じて、未来の生活を探求するという学習を展開。コンピューターの働きを理解することで、今よりもより豊かな生活や社会づくりに向かう態度を養うという。
また、佐川急便は、宅配便の仕組みや工夫についての学習を提供している。当たり前のように利用している「便利」を理解し、自己の生き方の考えを深めるという趣向だ。面白いのは、小学生が学習を深めていく中で、宅配業界全体が直面する「物流量の爆発的増加への対策」なども考える点だ。小学生なりの解決策は興味深い。
身近な便利を改めて考えるという取り組みでは、積水ハウスが行っている小学校でのプログラミング教育も面白い。小学生にとって「家」は過ごす時間が最も長い場所。身近であり、当たり前の存在だ。そんな身近な「家」を素材に、住まいの今昔の比較、社会問題や環境問題に加え、皆が住みよい家や、未来の家をプログラミングで作成していくという授業である。
その授業では、住まいの変化を時系列で見て感じる事によって、より利便性を追求した、暮らしやすい家をグループで提案する時間も設けられている。実際にハウスメーカーの社員に提案書を見てもらい、コメントやアドバイスがもらえるというのは、様々な経験が蓄積していく小学生にとって、大変貴重な体験になるのでは無いだろうか。
各企業の取り組みを見ると、一昔前の校外学習とは一線を画した、より具体的な体験が準備されているのが興味深い。企業側にはもちろん、人材への先行投資という思惑もあるだろう。しかし、それ以上に、小学生にこういった教育を行うことは、日本の産業全体の発展にもつながるのではないだろうか。
人材不足による労働力の減少を補って余りある、一騎当千の優秀な人材が醸成されることを切に願う。(編集担当・今井慎太郎)