事実は小説より奇なり? 今、読破しておきたい話題のビジネス書籍

2020年11月15日 08:56

表紙

ビジネス書とはいえ、実話に基づいたノンフィクションは、臨場感と説得力が違う

 感染拡大が落ち着いてきたかと思いきや、寒さが増すにつれて、新型コロナウイルスが世界中で再び猛威を振るい始めている。インフルエンザの流行期とも重なる中、手洗いやうがい、消毒の励行はもちろんのこと、不要不急の外出はなるべく控えて、感染拡大防止に努めたいものだ。

 とはいえ、長引くコロナ禍で自宅時間を持て余している人も多いのではないだろうか。サブスクリプションの動画サービスでドラマや映画を楽しんでいた人も、そろそろ見尽くした頃だろう。そこでお勧めしたいのが、ビジネス書籍だ。

 あまり興味のない人はとくに、ビジネス書籍といえば「○○力」だとか「○○の法則」とか、ビジネスに活用できるノウハウなどを紹介したものを想像するかもしれないが、実はそうではない。中には、普通の小説で語られる物語よりも奇想天外で、エンターテインメント性に富んだ、実話をベースにしたノンフィクションのビジネス書も多い。

 例えば、2020年10月29日から11月4日の一週間、丸善 丸の内本店の週刊ベストセラーランキング、ビジネス書部門で1位に輝いた「木のストロー」という本がそれだ。

 10月16日に発売されたばかりの新刊だが、発売されるや否や、まるでテレビやラジオでもドラマ化されたあの、池井戸潤氏の「下町ロケット」のような話だと話題を呼んでいる。

 著者は西口彩乃という女性。彼女は池井戸氏のような小説家でもなければ、ビジネス書の作家でもない。普段は木造注文住宅会社のアキュラホームの広報部に務める、ずぶの素人だ。広報部所属ということで、この書籍が住宅メーカーの宣伝や建築関係のノウハウ本のように思う人もいるかもしれないが、全く違う。それどころか、同書で彼女が最初に立ち向かう〝敵〟は、あろうことか同社の役員たちなのだ。

 アキュラホームは中堅の住宅メーカーだが、全国に100以上の拠点をを持ち、年間465億円を売り上げる巨大企業だ。西口氏は入社9年目の女性社員。新人というほどでもないが、ベテランと呼ばれるにはまだ少し早い。従業員1271名の中にあっては、まだまだ若手だ。

 そんな西口さんにある日、転機が訪れた。それが、著書のタイトルにもなっている「木のストロー」だ。

 この「木のストロー」は、ビジネス書籍のタイトルにありがちな比喩的な表現でもなんでもなく、そのまま。昨年、G20 大阪サミットの会場すべてで採用されて海外でも話題を呼んだ、世界初の「木のストロー」の開発秘話なのだ。

 親交のある環境ジャーナリストから「間伐材を再利用して、木のストローを作れないか」と提案を受けた西口さんはこれに共感し、社内で「木のストロー」の開発を提案する。ところが、「住宅会社がストローをつくってどうする」と、役員たちからは猛反対されてしまう。製造メーカー探しにも難航し、周りの人たちが皆、冷ややかな視線を送る中、それでも反対派の役員たちを熱心に口説き落としていく西口さん。そんな彼女の熱意に揺れ動かされ、賛同者も少しずつ増えていく。ところが、やっと開発に成功し、ようやく記者発表を迎えようとしたその直前、木のストローに致命的なトラブルが発覚する。次から次へと、彼女にのしかかってくる困難。しかし、それらの困難を一つ一つ乗り越えて、彼女は唯一無二の「木のストロー」を誕生させていく。

 発表されるや否や、メディアの反響はすさまじく、導入したい、購入したいという問い合わせも殺到。する。やがて、G20 大阪サミットの大舞台での採用が決まり、地球環境大賞(農林水産大臣賞)など、多くの賞も受賞。さらに彼女は、地元の間伐材を使って、地元で加工し、製造も地元の障がい者施設に任せ、地元の企業が購入して使用するという、世界にも類のない地産地消のビジネスモデルを作りあげていく。

 「木のストロー」のほかにも、お勧めしたいノンフィクションのビジネス書籍は多い。

 「必要なのは施しではなく先進国との対等な経済活動」という理念のもと、現地でとれるジュート(麻)を使用した高品質バッグをアジア最貧国のバングラデシュで生産し、輸入販売する「株式会社マザーハウス」を25歳で起業した山口絵理子氏の著書「裸でも生きる」や、アメリカ合衆国の元ファーストレディー、ミシェル・ロビンソン・オバマ氏の回想録として描かれる「BE COMING(邦題・マイ・ストーリー)」も、ぜひ読んでみてほしい。ちなみに「BE COMING」は世界45言語で発売されており、1000万部を突破した大ベストセラーだ。話題性だけではなく、国や文化の垣根を超えて、深い共感の輪が広がっている。

 ビジネス書とはいえ、実話に基づいたノンフィクションは、臨場感と説得力が違う。ビジネス書の中には、ネットで見かけるような情報を羅列したようなものも多いが、これらはそういった机上のものではない。自分自身のビジネスに得られるものが、きっと見つかるはずだ。(編集担当:藤原伊織)