忘年会シーズンに突入するこの時期は飲み過ぎ、食べ過ぎによる胃腸の痛みに悩まされる人が増え、市販の胃腸薬を愛飲する人が多くなる。しかし、年間を通してみると胃腸薬市場は年々縮小傾向に在り、2009年は約600億円を超えていた売上も、2011年は566億円となっているという。
そのような中2012年度で50周年を迎えるロングセラーの胃腸薬ブランドがある。それが1962年に「パンシロンでパンパンパン」のフレーズで一躍有名になったロート製薬の複合胃腸薬「パンシロン」だ。
「元々、明治時代を代表とする健胃薬「胃活(いかつ)」は、ロート製薬の源流となる信天堂山田安民薬房の創業時一代看板商品で、需要に製造が追いつかないほどのヒット商品となりました」と担当者。その後、大正、昭和と時代は移り、信天堂山田安民薬房は海外へ進出、1944年には厳しい戦局の中「ロート胃腸薬」を発売する。そして1949年には創業から半世紀を経て「ロート製薬」設立し、第二の創業として新たなスタートを切ったという。
「1954年には戦後初の胃腸薬「シロン」を発売しました。「シロン」という名称は、当時の社長が昭和4年に立ち寄ったスイスのレマン湖の古城であるシヨン城からとったとか。この商品は胃を連想させるユニークなパッケージデザインと「食べ過ぎ・のみ過ぎにシロン。胸やけ、胃の痛みにシロン。」のキャッチフレーズとともに大ヒットし、胃腸薬のトップブランドへと躍進しました。年間3500万個を売り上げる中、その後継商品として当時、胃腸と肝臓の両方に効く次世代の複合胃腸薬をつくるプロジェクトがスタート。それが「パンシロン」だったのです」と振り返る。
その後、「パンシロン」は飲み過ぎ、食べ過ぎに効く複合胃腸薬として生まれ変わり、また症状やニーズに合わせて種類を拡大。「この50年間で出荷された「パンシロン」は約5万個、タテに並べると地球から約38万キロ離れた月までの距離に相当します」。現在は、複合胃腸薬「パンシロン01プラス」、ストレス・飲みすぎからくる胃痛・胸やけを鎮める「パンシロンキュア」、など合計9シリーズを販売している。
高度経済成長に登場した初代パンシロンは、当時、残業、接待、暴飲暴食などのハードワークと不規則な生活を送りながら日本の成長のために懸命に働いていたサラリーマンの指示を受け、右肩上がりの成長を続けたという。コマーシャルキャラクターに、故・植木等氏を起用しサラリーマンの共感を得たことも大きかったと考えられる。「その後、安定成長期への移行に伴い、世の中は健康的なマイルド志向になり、胃腸薬にもそれまでのハードな効き目だけでなく、のみやすさが求められるようになりました。そこで、手間はかかるものの、飲み心地が格段によくなる水を加えて作る製法での製剤に取り組み、約3000回に及ぶエージングなど3年の歳月を費やし、1980年、「新パンシロン」を登場させました」。
時代の変化がめまぐるしい中、どの業種の商品でもロングセラーブランドを生み出すのは難しい。しかし「パンシロン」のように、基本ラインを保ちながら的確にニーズを捉え変革を遂げていく。この柔軟な姿勢があれば生き残っていく可能性も見えてくるのではないだろうか。