スマートフォンやタブレットなどのウェアラブル機器への給電方法として注目されている、無線給電機能。機器にこれが備わっていれば、わざわざマイクロUSBケーブルを本体に差したりしなくても、充電パッドに置くだけで充電できるので非常に便利だ。その便利さたるや、一度使うと、もう手放せなくなってしまうほど。
しかも便利なだけではなく、接点端子が必要なくなれば、機器の防水性や防塵性も高まる。また、端子の付け外し時に接続部周辺を傷めたり、壊したりするような心配もしなくて済む。無線給電の国際標準規格 「Qi(チー)」に対応していれば、他の機器類との共用もしやすいし、コンビニなどでも充電パッドを手軽に購入することもできる。
株式会社グローバルインフォメーションが3月に発売した、市場調査レポート「ワイヤレス充電の世界市場・COVID-19の影響 (~2026年)」によると、2021年の無線充電の市場規模は45億米ドル。今後、CAGR24.6%で成長し、2026 年には134 億米ドルにまで達すると見込んでいる。またその根拠として、家電製品におけるワイヤレス技術の採用率上昇、EV車の販売台数増加、複数のデバイスを一度に充電できる技術の確立などを挙げている。
ところが、そんな便利な無線給電システムにも弱点がある。それは、既存の無線給電規格は周波数が低く、規格準拠するためにはアンテナの小型化に限界があることだ。例えば、流通現場で普及が加速しているスマートタグやスマートカード等の小型機器や、マウスやワイヤレスキーボードなどのPC周辺機器、ヘルスケア機器など、無線充電化できればますます便利に使えそうなものも多いが、Qi規格対応の大きなアンテナを小型機器や薄型機器に仕込むのは難しかったのだ。
そんな中、日本の電子部品メーカー・ローム株式会社が、これらの課題を解決しうる、新しいワイヤレスチャージャーモジュールを他社に先駆けて開発、発表したことで大きな話題を呼びそうだ。ロームが2021年11月11日に発表したばかりの新製品「BP3621」「BP3622」は、13.56MHzワイヤレス給電に対応したアンテナ基板一体型モジュールで、Qi規格のアンテナと比較すると、面積80%以上の小型化に成功している。受電モジュールはおよそ1円玉くらいのサイズだというから驚きだ。給電量は最大200mWまで対応し、裏面フルフラットの基板構造により筐体設計の自由度も高い。送電モジュールと受電モジュールをペアで使用することで、給電効率の最適化に必要な開発工数も削減できる。その上、内蔵アンテナで双方向のデータ通信やNFC Forum Type3 Tag1に対応できるので、アプリケーションの通信機能拡張も可能になる優れものである。これまで無線給電化が難しかった小型・薄型機器への実装や市場の発展を後押しするものとなりそうだ。
小型・薄型の電子機器も無線給電が可能になれば、利便性が向上するのはもちろんのこと、今までになかった機能や、これまでになかった新しい製品、ウェアラブル機器なども生まれるかもしれない。1円玉サイズに込められた日本のスゴイ技術が、新しい未来を見せてくれることを期待したい。(編集担当:今井慎太郎)