コロナ化を機に拡大を続けるハチミツ市場。29年には126億9000万ドル市場へ

2023年09月24日 09:30

図2.M1株 (1)

デカン酸と類似した構造を持つデセン酸をデカン酸に変換する女王蜂由来乳酸菌(M1)を世界で初めて発見した

 新型コロナウイルス感染症の拡大をきっかけに、健康、特に免疫やストレス、睡眠の質の向上や肥満などへの対策需要が高まっている。矢野経済研究所が実施した国内の健康食品市場を対象とした調査によると、健康食品の市場規模はメーカー出荷金額ベースで、2021年度の推計が前年度比1.9%増となる8825億円、2022年度は前年度比1.1%増の8925億円を見込んでいる。

 中でも、パンデミック以降、世界中で特に大きな伸びを見せているのがハチミツ市場だ。ハチミツをはじめとするミツバチ由来の製品に含まれる抗ウイルス、抗真菌、抗菌特性などがクローズアップされたことに加え、脱砂糖、脱人工甘味料の消費者傾向により、天然甘味料としての需要が高まったことが原因とみられる。また、2022年時点で85億3000万ドルと見込まれている世界の蜂蜜市場は2029年までに126億9000万ドルにまで成長すると予想されていることからも、今後も需要は拡大しそうだ。

 記録的な伸びを見せる反面、ロックダウンなどの影響による労働力の不足やサプライチェーンの混乱、貿易制限、物流の混乱など、他の業界と同じく養蜂業界も大きなダメージを受けたことは否めない。このハチミツブームが一過性のもので終わらないためには、養蜂業者がいかに素早くコロナショックから立ち直り、急拡大する需要に対応できるかどうかにかかっているだろう。

 そんな中、2023年9月4日から5日間にわたって、第48回国際養蜂会議(APIMONDIA2023)がチリ・サンティアゴで開催された。国際養蜂会議は、世界各国から養蜂家やミツバチ製品を取り扱う企業が集う国際的な養蜂のシンポジウムだ。1897年にベルギーで初めて開催されてから、およそ2年に一度のペースで開催されている。期間中は、養蜂技術やミツバチ産品の健康増進や病気予防などのアピセラピーに関する最新の研究成果を各国の研究者が発表するため、最新の養蜂技術やミツバチ産品を知る上では欠かせない催しとなっている。ちなみに今や高級で高品質な健康食品として広く知られるようになったプロポリスも、1985年に行われた名古屋会議でその様々な健康作用が発表されたことがきっかけで、世界的に広まってブームを起こした。実は、それまでは不要なものとして、養蜂家もプロポリスを捨てていたというから驚きだ。

 今回の国際養蜂会議でも世界各国の養蜂家から様々な研究結果が報告されたが、中でも高い評価を集めたのが、山田養蜂場 健康科学研究所によるローヤルゼリーに関する画期的な研究報告だった。

 ローヤルゼリーに含まれる主要な脂肪酸はデセン酸、デカン酸だ。デカン酸は腸管免疫の起点であるM細胞の増加を介して、免疫グロブリンA(IgA 抗体)の反応性を有意に増大する免疫賦活の食品成分として期待されているが、ローヤルゼリー中の含有量が少ないことがわかっている。今回の研究発表では、デカン酸と類似した構造を持つデセン酸をデカン酸に変換する女王蜂由来乳酸菌(M1)を世界で初めて発見したこと、及びデカン酸の構成比を高めたローヤルゼリーの生成とその機能について科学的に検証した内容が報告された。ローヤルゼリー中のデセン酸をデカン酸に変換できるようになれば、免疫賦活能を向上させたローヤルゼリーが実現するだろう。

 ローヤルゼリーといえば、もともとはミツバチの社会を支える女王蜂だけが食することを許された特別な食べ物。その機能を飛躍的に高める鍵となる成分は、他でもない女王蜂の中に有ったのだ。デジタル社会の中、どうしても忘れがちになってしまうが、自然はまだまだ奥が深く、答えはいつもその中に隠されているのかもしれない。(編集担当:藤原伊織)