半導体勢力図の再編加速 国内企業の新たなビジネスチャンスとは?

2023年08月13日 10:16

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世界半導体市場統計(WSTS)によると、2022年の世界半導体市場は、前年に比べて3.3%増の5,740億8,400万米ドルで、過去最高を更新したそうだ

 米中対立による輸出規制強化などで、連日半導体がニュースを賑わせている。注目されるだけあって、半導体市場は順調だ。世界半導体市場統計(WSTS)によると、2022年の世界半導体市場は、前年に比べて3.3%増の5,740億8,400万米ドルで、過去最高を更新したそうだ。2023年は、世界情勢や民生機器の需要低迷で一時的に減速する予測だが、自動車や再生エネルギー用途の需要や、生成AIなどにも需要があり、2024年には過去最高を越える再拡大が予測されている。

 一方、新型コロナウイルス感染症による生産停滞と、巣篭り需要や自動車の電装化による需要増で長期化した半導体不足によって、主に欧米の半導体に関する産業政策の方針に変化が見られる。半導体の生産拠点が台湾や韓国に集中していることで、欧米諸国にとっては地政学的リスクが高い。そこで産業補助金などを支給し、自国内での半導体生産を増やすよう、主要メーカーに働きかけ始めた。日本のメーカーも数多く含まれており、ビジネスチャンスと捉えるべきだろう。

 日本も追随するように、政府から半導体分野への施策が次々と発表された。これらを巧みに活用することで、デジタル半導体の分野では、長く台湾や韓国の後塵を拝する形だったが、来るべきビジネスチャンスに向けて、国内の主要メーカーも順調に爪を研いでいる。そしてアナログ半導体、特に日本メーカーが奮闘しているパワー半導体の分野では、需要の高まりを背景に新製品の開発でも今まさに勝負をしかけている。例えば国内大手のロームは、次世代半導体の650V GaN(窒化ガリウム)パワーデバイスと、そのパフォーマンスを最大限引き出すために最適化された駆動用の部品や機能を1パッケージにした「パワーステージIC」の販売を開始した。既存のSi(シリコン)パワーデバイスから簡単に置き換えることが可能になり、Siパワーデバイスに比べて冷却機構を含めた部品体積をなんと約99%、電力損失を約55%も削減できる優れ物だ。

 近年サステナブルな社会実現に向けて、民生機器や産業機器にも省エネ化が求められている。以前より電力変換効率の向上や、装置の小型化の観点から注目されていたGaNパワーデバイスだが、取り扱いの難しさがネックとされていた。ロームはパワー半導体とアナログ半導体に注力している企業であり、2つのコア技術の掛け合わせで、次世代パワー半導体とも言われるGaNパワーデバイスの簡単実装の実現に漕ぎつけた。その他の国内企業も、自社が世界に通用する強みを研ぎ澄まし、飛躍する機会を伺っている状況だ。

 半導体の製造工程において用いられる部材、装置などに関して、日本企業は世界的に高い競争力を発揮している。一方で、他国の方が優れた最新技術を有している分野もある。欧米諸国も他国の製造技術を取り込まねばならず、自ずと各地の半導体企業を自国内に呼び込む誘致合戦が行われるだろう。そうした産業政策の変化に敏感な海外の主要投資家たちが、日本株に資金を振り向け始めている。このまたとないビジネスチャンスが、グローバル化の遅れを指摘され、辛酸を舐めてきた国内企業の逆襲の一手となることを願いたい。(編集担当:今井慎太郎)