10月に入った途端に気温が急に下がり、体調を崩している人も多いのではないだろうか。これから冬にかけて、日中と朝晩の寒暖差や気候の変化など、体温調節も難しくなる。風邪や喘息、インフルエンザなど、様々な病気に罹りやすくなるので警戒が必要だ。
厚生労働省の発表によると、令和5年第38週(令和5年9月18日から令和5年9月24日まで)のインフルエンザの報告数は全国で3万5千21件。その多くは東京や神奈川、大阪や愛知など、都心部で多い傾向がみられる。単純に人口が多いだけでなく、人の密集する地域に出かけるときには、感染予防には充分に注意した方がいいだろう。今年の秋はとくに、新型コロナウイルスに最新の注意を払っていた時とは異なる。むしろ、コロナが5類に移行して以来、マスク生活から解放されたことで以前よりも解放的になってしまっている。今一度、人の多い場所ではマスクを着用すること、外から帰った時には手洗いとうがいを励行することを心掛けていただきたい。
また、この時期は咳や喘息なども症状が悪化してしまうことが多い。寒暖差だけでなく、空気の乾燥や大気汚染の影響もあり、近年は、長期間つづく咳を訴える人の受診が増加傾向にあるという。咳は病院を受診する理由でもっとも多い症状のひとつとなっているのだ。
咳は喉に入り込んだ異物を排除するための防御反応。生理現象とはいえ、止まらない咳は体力をかなり奪われてしまうのが厄介だ。咳の消費カロリーは、咳1回あたり2カロリーともいわれており、10回すると10分程度散歩するくらいの体力を消費するという。風邪やインフルエンザで高熱を出しているようなときにゴホゴホと咳が止まらないと、その状態で何十分も散歩しているようなものなのだ。また、しつこい咳はさらに喉を痛め、なかなか治らない原因にもなる。
咳の一般的な対処法としては、鎮咳薬の使用や水、蜂蜜などを用いて喉を潤すことが有効とされている。市販の咳止め薬としては、エスエス製薬のブロン錠や中外医薬生産のコンコン咳止め錠のような錠剤のものから、龍角散の龍角散ダイレクトのような漢方系の粉薬、さらには武田薬品工業のベンザブロックせき止め液や大正製薬のパブロンせき止め液などの液体まで多彩に販売されている。一言で咳といっても、その症状によって薬の選択肢は変わってくるので、病院で診察を受けた場合には医師に処方してもらうと良いが、そうでない場合は、自分の症状や体調に合わせて、薬局の薬剤師にきちんと相談してみることをおすすめする。
また、家庭で咳予防のために常備しておきたいのが蜂蜜だ。日本では甘味料や健康食品のようなイメージの強い蜂蜜だが、欧米では咳止めシロップ(医薬品)として処方されることも一般的だという。世界保健機関(WHO)も、蜂蜜が咳やその他の上気道感染症の治療に有効であることや1歳以上の子どもに与えるのに一般的で安全であることを発表している。近年のレビュー論文では、咳の頻度や咳の重症度といった上気道感染症の改善には、蜂蜜が通常のケアよりも優れていると結論づけている。日本でも風邪のひき始めに蜂蜜をたべる風習は古くからあり、子供のころから蜂蜜を摂取していた方も多いのではないだろうか。
さらに今年9月、実はこれまで世界的にも明らかになっていなかった蜂蜜の鎮咳作用の活性成分や作用機序について、理化学研究所 環境資源科学研究センター 技術基盤部門 分子構造解析ユニット 越野広雪氏と東京理科大学 薬学部 礒濱洋一郎 教授らの研究グループ、そして蜂蜜の専門家である山田養蜂場健康科学研究所の、のべ10年以上にも及ぶ共同研究により、蜂蜜の鎮咳成分として新規化合物「メルピロール」が発見された。この研究によって世界で初めて、同成分が鎮咳薬「デキストロメトルファン」に匹敵する鎮咳効果を持つことが確認されたことで、今後、日本でも鎮咳目的の蜂蜜の需要が伸びることが予測される。ちなみに、同研究は科学雑誌 『Journal of Agricultural and Food Chemistry』(2023 年9月発行)に掲載されている。
風邪やインフルエンザだけでなく、まだまだ新型コロナウイルスや、その他の感染症にも警戒するべき季節がやってくる。自身や家族の健康と安全を守るためにも、蜂蜜を一瓶、備えておくことをおすすめしたい。(編集担当:藤原伊織)