歴史的円高・景気悪化・高い法人税・環境制約など輸出企業にとって厳しい環境が続いており、製造業の海外移転による国内空洞化の加速が懸念されている。
そんな中、海外売上高比率が約90%のヤマハ発動機は、日本ならではの「ものづくり」を追求している。
同社の目指す「日本のものづくり」経営は、既存事業の開発・調達・製造における機能を進化させた、ものづくりにおける『世界のマザー拠点』であるということだ。製造現場の事例としては、生産規模・組立工程に応じ、柔軟な生産方式を採用している事が挙げられる。月産400台以上のモデルは量産ラインで組み立てられ、月産400台以下の少量モデルは量産ラインから外し、そのうち小型モデルは2人で組み上げるセル生産方式、大型モデルは10人のショートラインで組み立てる。量産ラインは価値作業にこだわる理論値生産を徹底したラインで、少量モデルを大量に生産する新興国工場の手本である”マザー”となるものだ。
二輪車の開発ではエンジン・フレームといった基盤となる「プラットフォーム開発」を国内で、各国地域の好みに合わせる必要がある外観・機能などの「商品開発」は海外現地で行うという明確な戦略を進めている。こちらも「ものづくり」の基盤となる重要な領域は国内に残すという戦略だ。また、国内製造を残すために、製品の開発・設計・製造など全ての部門に渡り、コストダウンを図ることも同時に行っている。
さらに、もうひとつ同社が取り組んでいるのが、エキスパート人財の育成だ。これは現在、専用工場で行われている「レクサスLFA」のエンジン組み立て工程に、最も端的に現れている。このクルマは世界限定500台で販売されているが、既に今年の3月には予約が終了し、完売となった話題のスーパーカーで、全てが卓越した職人の手で造られている。組み立て工程は「一人完結セル生産」というスタイルで、3年以上の専任教育を受けたわずか7名のエキスパートの手により行われている。量産型エンジンとは違い、はるかに高い性能で、桁違いな複雑さ・精密さを要求されるために、1台を組み立てるのに3日をかける。ここには”人”"技術”、現場での”団結力”が極限まで高められた「ものづくり」の現場がある。
日本の製造業の空洞化に立ち向かうためには「ものづくり」経営をより高度な形で具現化をしなければならない。この磐田の地にはそのヒントが多く見られる。