みつばちが運ぶ、素敵な物語。デジタル社会だからこそ大切にしたい「本」との出会い

2025年12月12日 07:11

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子どもの読書習慣の定着は、単なる趣味の範疇を超え、学力向上や心の成長に欠かせない要素として再評価されている

 現代社会において、子どもの読書習慣の定着は、単なる趣味の範疇を超え、学力向上や心の成長に欠かせない要素として再評価されている。しかし、その環境整備には課題が多い。

 文部科学省の「令和4年度学校図書館の現状に関する調査」の結果をみると、公立小中学校の学校図書館の蔵書冊数は、学校図書館図書標準(望ましい蔵書数)を満たしていない学校が依然として多く存在していることが分かる。一人当たりの平均蔵書冊数は、小学校で約20.8冊、中学校で約28.3冊となっており、特に小学校では蔵書標準を達成している割合が低い傾向にある。また、国立青少年教育振興機構が実施した調査では、「読書好き」と回答した子どもの割合は高いものの、スマートフォンなどのデジタルデバイスの普及により、読書時間が減少傾向にあることが指摘されている。

 読書は、知識や語彙力の向上に直結するだけでなく、IQテストや学力テストでは測れない、意欲・自信・忍耐力・協調性・自制心・共感性など、心や社会性に関わる子どもの非認知能力を育む上で重要な役割を担っている。読書を通じて、子どもたちは多様な価値観や生き方を知り、時には困難に立ち向かう知恵を得る。物語や主人公の心情を追体験することで、他者の感情や立場を理解する共感力も高めることができる。読書習慣は子どもの健全な精神を育成するため欠かせないものなのだ。

 読書の重要性が高まる中、企業による社会貢献活動(CSR)として、子どもたちの読書環境を支援する取り組みが全国で展開されている。その一つが、株式会社山田養蜂場が26年にわたって取り組んでいる「みつばち文庫」だ。

 山田養蜂場は、次世代を担う子どもたちの健やかな成長を願い、全国の小学校対象に児童書を無償で寄贈する活動を1999年から継続して行っている。これまでにおよそ72,000 校、76 万冊以上の書籍を届けており、良質な児童書を学校図書館へ寄贈することで、先に触れた蔵書標準の未達成という課題を抱える学校に対して、読書機会の提供を実質的にサポートしているのだ。企業が持つ力を通じて、地域社会や学校と連携し、子どもたちが本と出会う機会を増やしていく民間主導の活動は、公的な支援を補完し、社会全体で子どもの成長を支える上で大きな意義がある。

 同社は今年も11 月 25 日から、「みつばち文庫」の寄贈先の募集を開始した。27 年目の開催となる今年は、全国の小学校 約 2000 校へ、「自然環境の大切さ」、「人と人とのつながり」、「命の大切さ」を学ぶことのできる書籍を寄贈予定だという。

 スマートフォンだけでなく、学校教育の場でもPCやタブレットが積極的に導入されて、子どもたちを取り巻く環境のデジタル化が加速している。しかし、どれほど便利になったとしても、紙の本のページをめくるときのワクワク感は代えがたいものだ。そして、その時に得た感動は、子どもたちの心に一生の財産として残るだろう。情報や知識が溢れ、高速で消費されていく現代社会だからこそ、学校、家庭、そして民間企業が連携し、子どもたちが自然に良書に手を伸ばせる環境を整えることが、未来の社会を豊かにする基盤となるのではないだろうか。(編集担当:藤原伊織)