人生を生き抜く力「非認知能力」を高める方法。1冊の絵本が子どもの未来を変えるかも?

2022年03月13日 09:59

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子どもの頃の読書量が多い人は、意識・非認知能力と認知機能が高い傾向があることが分かった

今、世の中が目まぐるしい速度で変化している。人工知能の発展やインターネット環境の普及、さらにはコロナ禍や相次ぐ異常気象など、社会や生活を大きく変えてしまう事象は、数え上げればきりがない。そんな中、世界中で注目されているのが「非認知能力」だ。

 「非認知能力」とは、ノーベル賞を受賞したアメリカの経済学者ジェームズ・J・ヘックマンが提唱した概念で、簡単に言えば、人が人生を「生き抜く力」のことだ。テストで測ったり数値化できる知能指数や学力などの「認知能力」と対をなす能力を指す言葉で、経済協力開発機構 (OECD)では「社会情動的スキル」とされ、 忍耐力や自己抑制、目標への情熱などの「目標の達成」、 社交性や敬意、思いやりなどの「他者との協働」、そして自尊心、楽観性、自信などの「情動の制御」に関わるスキルとして分類されている。日本でも、こういった、いわゆる「学力以外の能力」に対する関心は高まっており、文部科学省が2020年3月に改訂した新学習指導要領でも「生きる力」をはぐくみ、子どもたちが未来を切り拓いていくための資質や能力を伸ばす方針が主軸となっている。

 では、そんな「非認知能力」はどうすれば高めることができるのだろうか。

 2021年8月に国立青少年教育振興機構が公開した「子どもの頃の読書活動の効果に関する調査研究」の報告書によると、子どもの頃の読書量が多い人は、意識・非認知能力と認知機能が高い傾向があることが分かったという。また、最近ではスマートフォンやタブレットなどのスマートデバイスやPCを使った読書が急増しているが、同調査によると、それらのデジタルデバイスを介した読書よりも、旧来の紙媒体で読書をしている人の方が非認知能力が比較的高い傾向も見られたという。また、認知機能においても、小中高と継続して読書を行っている場合、高くなるという結果が示されており、とくに高校時では明らかな相関関係が確認される上、高校時の読書量には、小中学校の時の読書量が寄与していることが示唆されている。つまり、幼い時からの読書習慣と読書量が、認知能力だけでなく非認知能力をも高めることにつながるといえるだろう。

 そこで注目したいのが、各自治体が取り組んでいる「ブックスタート事業」だ。ブックスタートとは、赤ちゃんと保護者が絵本を通じて、ふれあいの時間を持つことで、子どもの健やかな心を育もうという趣旨のもと行われている、赤ちゃん一人ひとりに絵本を手渡す活動だ。

 1992年にイギリスのバーミンガム市で始まったこの活動は多くの人の共感を呼び、やがてイギリス全土に広がっていった。日本では 2000年に開催された子ども読書年推進会議の会合で紹介され、同時に試験実施が行われると、さまざまなメディアで紹介されて反響を呼び、2001年4月には12市町村が新規事業としてブックスタートを開始した。その後、活動は全国に広がり、賛同する企業も出てきている。

 例えば、岡山県では、苫田郡鏡野町と津山市で実施されているブックスタートに、ミツバチ産品の製造・販売を手がける民間企業の山田養蜂場が支援を続けている。同社は支援している2002年から2021年の期間で、鏡野町と津山市に計19030冊の絵本を寄贈。2022年度も鏡野町のブックスタートへの支援を発表しており、赤ちゃんにプレゼントされる2冊のうちの1冊分、計100冊の絵本を寄贈するという。

 赤ちゃんが家族とともに絵本に親しみ、そのふれあいの記憶や経験が読書習慣につながり、さらにはそれが「生きる力」へと育っていく。1冊の絵本が子どもたちの未来を大きく変える力になるかもしれない。(編集担当:藤原伊織)