車の衝突事故による激しい衝撃から身を守る安全装置として、今やエアバッグは当たり前の装備となった。1980年代に入り、あのメルセデス・ベンツが世界で初めて実用化して以来、高級車を中心に徐々に普及し、一般の乗用車に標準装備されるようになってからは、車の衝突事故による死亡者の数は減少し続けている。
そんなエアバッグの機能も年々進化を続けているようだ。21世紀に入ると、まずBMW5シリーズが側面衝突時に頭部と上半身を効果的に保護するITSヘッド・エアバッグが世界で初めて搭載された。また最近では、メルセデス・ベンツがEクラスにおいて、運転席・助手席エアバッグ、前席・後席サイドバッグ、ウィンドウバッグに加え、衝突時に運転者の膝部を保護し前方への移動を抑えるSRSニーバッグや、側面衝突の際に運転者や同乗者の体にかかる衝撃を軽減するSRSぺルビスバッグを採用。国産車では、トヨタのレクサスLFAが、シートベルト本体にエアバッグが内蔵し、衝突時に肩ベルトの一部が丸く膨らんで乗員の頚部と胸部を保護するシートベルトエアバッグを日本で初めて搭載した。
さらに、今月5日には、シートベルト、エアバッグ、チャイルドシートなどの自動車用安全システムを提供する専門メーカーのタカタが、世界初の構造によりエアバッグ自身で圧力を調整する機能を持たせた運転席用エアバッグ、フレキシブル・ベンティング・テクノロジー・エアバッグ(FVTエアバッグ)を製品化するなど、その安全性はさることながら、軽量化やコスト低減など、現在のエコカーへの流れに合わせてエアバッグも機能を強化している。
このように、エアバッグをはじめとした車両に搭載されている安全装備が進化したことにより、交通事故による搭乗者の死亡率は減少したのは確かなようだ。しかし警察庁によれば、交通事故による死者数うち、歩行中の交通事故死者数の割合が約3分の1を占めているという。さらなる交通事故死者数減少のためには、歩行者保護が急務のようだ。
そんな中、ボルボ・カー・ジャパンから先月日本国内で販売が開始されたコンパクトワゴン「V40」に、市販車としては世界で初めて「歩行者専用エアバッグ」がオプションにて搭載された。この歩行者専用エアバッグは走行中に歩行者と接触したことをフロントバンパー内のセンサーが感知すると、ボンネット上端が少し上がり、そこからフロントガラスの外側にエアバッグを広げる。はねられた歩行者の頭部を積極的に守ろうという発想の装置だ。
自動車に跳ね上げられてフロントガラスに頭部を強く打ちつけるような事故の場合、ボルボが世界で初めて採用した歩行者専用エアバッグは、死亡事故や重大な障害から歩行者を守る効果がありそうだ。エアバッグは搭乗者を守るばかりか歩行者を守るものとして、これからの自動車の安全装置として定着するかもしれない。(編集担当:帯津冨佐雄)