士業はなぜ倒産するのか 「安定」の崩壊と競争の現実

2026年04月12日 09:33

今回のニュースのポイント

士業の倒産が2年連続で過去最多を更新:東京商工リサーチの調べでは、2025年度の「士業」事務所の倒産は18件となり、2011年度の調査開始以降、2024年度に続き2年連続で最多件数を記録しました。

全国倒産件数も高水準で推移:2025年の全国企業倒産(負債1,000万円以上)は前年比2.9%増の1万300件と、2年連続で1万件を超える高水準となるなか、士業の経営難も顕在化しています。

AI・クラウドによる「コモディティ化」の指摘:資格に基づく定型業務の一部が自動化・低価格化しつつあり、資格そのものの価値が相対的にコモディティ化(汎用化)しつつあるとの見方が出ています。

深刻な代表者死亡リスクと後継者不足:倒産原因「その他」の多くが代表者の死亡に関連しており、キーマンの体調悪化や死亡が事業継続を困難にしている実態が浮き彫りになっています。

税理士や社会保険労務士といった、かつて「安定」の代名詞とされてきた士業の世界で、いま市場原理による激しい選別が起きています。東京商工リサーチ(TSR)の調べでは、2025年度の「士業」事務所の倒産は18件となり、2011年度の調査開始以降、2024年度に続き2年連続で最多件数を記録しました。2025年の全国企業倒産(負債1,000万円以上)が前年比2.9%増の1万300件と、2年連続で1万件を超える高水準となるなか、専門職であるはずの「士業」の経営難もはっきりと可視化されるようになっています。

 この背景には、士業事務所が「個人の資格業」から「事業体」へと変容し、組織としての経営力が求められるようになった現実があります。近年、法人化や多拠点展開が進む一方で、有資格者の増加やITサービスの台頭、さらには異業種からの参入によって顧客獲得競争は激化の一途を辿っています。顧客側のニーズも、ルーチンワークは低価格なオンラインサービスへ、高度な判断が必要な案件は専門ブランドへという二極化が進んでおり、従来の「地元の事務所だから」という理由だけでは選ばれにくくなっています。

 特に、AIやクラウド会計の普及は、資格に基づく定型業務の一部を自動化・低価格化させつつあり、資格そのものの価値が相対的にコモディティ化しつつあるとの指摘も出ています。これにより、単純な作業時間を切り売りするモデルの収益性は低下傾向にあります。現在の士業には、これら自動化領域を超えたコンサルティングや事業承継支援、複雑な業務設計といった「付加価値サービス」をビジネスモデルに組み込めるかどうかが、生存のための重要な条件となっています。

 また、インターネットを通じた集客や大手ファームによる積極的な広告展開により、特に中小企業向けの定型業務では顧問料の値下げ圧力が常態化しています。「どこに頼んでも同じ」という前提が崩れ、明確な強みを持たない事務所が苦境に立たされる「競争産業」へと姿を変えるなかで、特定のニッチ領域に特化したり、ITを駆使して圧倒的な効率化を図ったりと、差別化に成功した事務所への集約が進んでいます。

 さらに、2025年度の倒産18件のうち、原因の約55.5%(10件)が「売上不振」によるものでしたが、特筆すべきは代表者の健康リスクです。TSRの分析でも、倒産原因「その他」に分類された案件の大半が代表者の死亡に関連しており、キーマンの体調悪化や死亡が事業継続を困難にしている実態が指摘されています。多くの事務所は依然として代表者個人への依存度が極めて高く、後継者が不在のまま不測の事態が起きると、たとえ売上自体はあっても組織として存続できず、倒産や廃業に追い込まれるという構造的な脆弱性が露呈しています。

 今後の士業業界では、大手法人による中小事務所のM&Aがさらに進み、後継者難を抱える事務所の吸収合併が増える可能性があります。同時に、特定分野に特化したブティック型や、AIを前提としたスリムな事務所などへの分化も進むとみられます。「資格の壁」に守られていた時代は過去のものとなり、事務所を一つの経営体として設計し、属人性を抑えた継続可能な仕組みを構築できるかどうかが、今後の環境変化を乗り切れるかどうかの大きな分かれ目になるでしょう。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)