トヨタが都市実証を加速 Woven Cityの戦略

2026年04月23日 11:52

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クルマは都市になるのか Woven Cityの新展開

今回のニュースのポイント

次世代AI「AI Vision Engine」を開発:カメラ映像から人やモビリティの動き、街の状態を言語化して理解・判断する大規模基盤AIを街全体に実装します。

「街全体の安全」を守る統合システム:車両単体の安全技術を超え、街のインフラと連携して死角の歩行者を見守る「Woven City Integrated ANZEN System」を構築します。

データ統合基盤「都市OS」の稼働:街中のデータを集約する「Infra Hub」と、プライバシーを守りつつ異業種間で連携する「Data Fabric」が都市の土台となります。

異業種連携によるプラットフォーム化:UCCや第一興商、eVTOL(空飛ぶクルマ)企業などが参画し、生活サービス全般を検証する場として拡大しています。

 トヨタ自動車が静岡県裾野市で進める「Woven City(ウーブン・シティ)」は、実証都市としての構想から、具体的な技術と運用の形を伴って現実段階に入りつつあります。今回公開された一連の取り組みは、トヨタが目指すモビリティ社会の核心が「車両」そのものではなく、それを支える「知能」と「インフラ」が統合的に運用されるシステムにあることを鮮明に示しました。

 なぜ、世界最大の自動車メーカーがゼロから街までつくるのか。その背景には、クルマ単体で価値を生み出すビジネスモデルを超え、生活空間そのものをデジタル化し、統合的に運用されるシステムとして再設計する必要があるという戦略的な判断があります。

 その中核を担うのが、新たに開発された大規模基盤AIモデル「Woven City AI Vision Engine(WAVE)」です。これは単なる画像認識AIではなく、カメラなどの視覚情報を起点に、人の動きやモビリティの挙動、さらには街の環境情報を統合し、いま現実世界で何が起きているのかを言語レベルで「理解」し、その状況に応じた判断や次の行動へつなげる能力を持ちます。いわば「街の目と頭脳」です。

 このAIは、人・モビリティ・インフラが一体となって安全を支える「Woven City Integrated ANZEN System」に活用されます。例えば、建物の死角にいる歩行者の存在を街側のカメラが察知し、接近するモビリティや歩行者のスマホへ瞬時に情報を知らせる。安全の概念を「クルマ単体」から「街全体」へと拡張することで、究極の交通安全を目指しています。

 こうした膨大なデータを循環させる土台となるのが、「Woven City Infra Hub(インフラハブ)」と「Woven City Data Fabric(データファブリック)」からなる都市OSです。プライバシーの保護とデータの利活用を両立させながら、物流、エネルギー、決済、娯楽などあらゆるサービスのデータを支える「都市OS」として機能します。

 注目すべきは、このプラットフォームに集う異業種企業の顔ぶれです。コーヒー大手のUCCはAIを使った次世代店舗の実証を行い、第一興商は街中での新たな余暇体験を模索しています。さらにeVTOL(空飛ぶクルマ)などの新興モビリティや、金融・決済サービスもこのエコシステムに組み込まれます。開発拠点となる「Inventor Garage(インベンター・ガレージ)」では、試作・検証・生活が地続きとなり、開発と実社会が一体化したサイクルが回り始めています。

 今回の動きの本質は、「製品としてのクルマ」から「インフラとしてのモビリティ」への転換、および「都市をサービスとして設計する(いわば『City as a Service』)」という発想にあります。トヨタが開発しているのは、将来の量産車に搭載される技術だけでなく、スマートシティの世界標準を視野に入れた都市OSそのものといえるでしょう。

 今後の焦点は、この実証都市で得られた知見が、いつ、どのような形で既存の都市や海外市場へ「社会実装」されるかです。データの所有権やプライバシーのルール設計を含め、トヨタが主導するこのプラットフォームがどこまで他企業や他自治体を巻き込み、標準化争いを勝ち抜けるか。日本の産業競争力にも影響を与えうる取り組みが、本格的なフェーズに入っています。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)