リコーと三菱電機は、感情推定センサーとAIを活用し、会議やワークショップにおける参加者の集中度や活性度などの状態データを可視化する共同実証実験を開始した。AI活用は議事録作成から、知的労働そのものの分析へと広がりつつある。
今回のニュースのポイント
株式会社リコーと三菱電機株式会社は3日、最新のAI技術と感情推定センサーを活用し、ワークショップや会議における参加者の集中度や眠気度などの状態データをリアルタイムで可視化する共同実証実験を開始したと発表しました。実験では、三菱電機が開発した感情推定センサー「エモコアイ」を搭載したデバイスをリコーの価値共創拠点に導入し、参加者の集中度や眠気度などを計測します。従来のAI活用が議事録作成などの「発話内容の記録と整理」にとどまっていたのに対し、今回の取り組みは「参加者の反応や議論の活性度」を定量化し、ファシリテーションの高度化や知的生産性の向上を目指す新たな試みとして位置付けられます。
本文
企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)が進むなか、新たなテーマとして浮上しているのが、これまで定量的な把握が困難だった「はたらく人の状態変化のデータ化」です。リコーと三菱電機が2026年6月3日に発表したプレスリリースによると、両社はリコーの東京・港区にある価値共創拠点「RICOH BUSINESS INNOVATION LOUNGE TOKYO(RICOH BIL TOKYO)」内のワークショップルームにおいて、2026年6月から7月までの約2カ月間、次世代型ワークショップの実現に向けた共同実証実験を実施します。
今回の実証実験では、ワークショップルーム内に三菱電機の感情推定センサー「エモコアイ」を搭載した「エモコセンサーユニット」を9台設置します。エモコアイは、人体に安全な微弱電波を送信し、心拍変動による反射波との周波数変化を脈信号に変換するドップラーセンサー技術を用いています。これにより、参加者にウェアラブル端末などを装着させることなく、非接触で「集中度(覚醒・没入)」「活性・緊張度」「眠気度(落ち着き・くつろぎ)」、さらには体動数などの状態データをリアルタイムで計測し、可視化することが可能となりました。
リコーはこれまでにも、同施設においてAI技術を活用し、空間内の発話内容をリアルタイムに付せん形式で分類・投影するディスカッション支援や、まとめ資料の自動生成、AIエージェントによる関連情報の自動提示といったシステムを運用してきました。今回の共同実証によって、従来の「何を話したか」という言語データの処理に加え、「参加者がどう反応したか」「議論がどの程度活性化したか」という状態データが新たに重ね合わせられることになります。
取得されたデータは、三菱電機の独自デジタル基盤「Serendie®(セレンディ)」を用いて分析され、ファシリテーションの手法と参加者の状態データとの相関関係を定量化するために活用されます。これにより、ファシリテーターが進行方法の客観的な評価や改善にデータを用いる仕組みの構築が進められます。
この取り組みの背景には、リモートワークの普及やハイブリッドワークの拡大に伴い、企業の意思決定やアイデア創出を行う場である「会議の質」の向上が、企業競争力を左右する重要な要素になっているという実情があります。これまで会議やワークショップの成果や盛り上がりは、主催者の主観や感覚で評価されることが多く、客観的な基準で質を測る手法は限定的でした。参加者の集中や覚醒の状態をデータ資産として蓄積・分析することは、ファシリテーションの効果を可視化するだけでなく、組織の知的生産性を高めるための新たなアプローチとみられます。
従来の働き方改革やオフィスのDXは、紙の削減や移動時間の短縮、定型業務の自動化といった「事務作業の効率化」に主眼が置かれてきました。しかし、今回の実証実験が目指す方向性は、人間の創造力を発揮しやすい環境の構築や、議論の質の向上、より的確な意思決定の支援など、生産性向上の対象を「知的労働の本質」へと移行させる段階に入りつつある実態を映しています。
もちろん、人間の複雑な感情のすべてをテクノロジーで完全に定量化できるわけではなく、データ化できない領域は残ります。しかし、会議の進行度や環境要因と人間の状態データとの関係を客観的に評価し、ワークショップの設計にフィードバックする試みは、今後のオフィスワークのあり方に影響を与える可能性があります。両社は本実証実験を通じて、働き方改革や組織の生産性向上に貢献する、感情推定データを活用したオフィス向け新サービスの共同開発と思考の拡張を目指すとしています。
AIの役割は、文章を作成したり記録を整理したりする段階から、人間の議論そのものの状態を客観的に分析する段階へと進み始めています。企業が次に最適化しようとしているのは、目に見える事務手続きではなく、人間の創造性や意思決定そのものなのかもしれません。 (編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)













