自賠責はなぜ赤字なのか 損害率と資金構造の実態

2026年05月01日 17:17

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自賠責は本当に赤字なのか 制度と資金の構造

今回のニュースのポイント

自賠責保険は損害率127.3%と、保険料100円に対し127円を支払う収支の不均衡が続いています。事故件数は減る一方、医療費高騰や重度障害対応の長期化で1件あたりの単価が上昇しています。加えて、1990年代に約1兆1,200億円が一般会計へ繰り入れられた「資金移動」の問題も、制度の余力を低下させた要因とされています。未収分については令和7年度補正予算での繰上げ返済が決まりましたが、料率上昇を抑えるためのクッションは大幅に削られてきた格好です。現在の収支は、支出増と余力低下が重なる「二重構造」の課題に直面しているとみられます。

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 自賠責保険は、しばしば「赤字が続いている制度」として語られます。しかし、その内訳を詳しく見ると、単に保険金の支払いが増えているだけではなく、制度の内外における資金の動きが複雑に絡み合った「二重構造」の問題であることが分かります。

 まず、現在の収支状況を象徴するのが「損害率127.3%」という赤字の正体です。2026年4月に開催された第153回自賠責保険審議会の資料によると、2026契約年度は4,358億円の保険料収入に対し、5,546億円の支払いが発生すると見込まれています。いわば「加入者から100円集めて127円を被害者に支払う」状態であり、純粋な保険としての収支は、不足する状態が続いているとみられます。

 ここで疑問となるのが、なぜ「事故が減っても」損害率が上がるのかという点です。その背景には、事故1件あたりの単価上昇という構造的要因があります。警察庁の統計などで交通事故や死者数は長期的に減少していますが、医療技術の高度化や物価・人件費の上昇により、治療や回復にかかる費用は増加傾向にあります。また、重度の後遺障害を負った被害者に対し、在宅介護や療護施設での専門的ケアを一生涯にわたって支える必要があり、1件あたりの支出期間が長期化しています。つまり、「事故被害は減っているが、救済のためのコストは上がり続けている」のが現状です。

 さらに、損害率の高さ以上に制度の余力を低下させた「資金構造」の課題も無視できません。1990年代、自賠責の積立金から国の一般会計へ約1兆1,200億円繰り入れられ、その資金が長期間戻らない状態が続いてきました。未収分については、令和7年度補正予算において当面の繰上げ返済が実現する運びとなりましたが、こうした資金移動が長引いたことは、結果として保険料上昇を吸収する制度の「余力」を大きく低下させる要因となりました。

 こうした実態は、私たちの保険料へも直接的な影響を及ぼしています。ドライバーから見れば「事故は減っているのになぜ値上げなのか」という疑問を持つ場面もありますが、実際には「目の前の支出増」を、過去の資金移動で弱まった「制度余力で補っている状況」とみられます。現在は約5,215億円の滞留資金を取り崩して上げ幅をなんとか抑えていますが、この「貯金」が底をつけば、将来的にさらなる上昇圧力がかかりやすくなります。

 自賠責保険の赤字は、単に保険金の増加だけで説明できるものではありません。今後の焦点は、安全技術の普及やデジタル化による損害率・コストの抑制と、一般会計からの着実な返済を通じた資金構造の正常化という二本柱に集約されます。自賠責保険を「持続可能な制度」へと再設計するためには、目先の赤字を埋めるための場当たり的な値上げではなく、この複雑な構造的課題に正面から取り組むことが求められています。事故が減っても保険料が下がらない理由は、この構造にあるとみられます。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)