自賠責はなぜ変わるのか 料率改定と制度見直しの背景

2026年05月01日 08:08

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自賠責はなぜ見直されるのか 負担増の背景

今回のニュースのポイント

自賠責保険の基準料率が2026年11月から全体平均で約6%引き上げられる見通しです。2026年度の損害率は最新の検証で127.3%と予測され、収支の赤字構造が続いています。本来はより大幅な引き上げが必要な局面ですが、約5,215億円にのぼる「滞留資金」を5年かけて補填に回すことで、上げ幅を抑制しています。また、デジタル化による効率化の成果を将来の料率に反映させるための経費計算基準の見直しも新たに導入されました。

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 すべての自動車やバイクの保有者に加入が義務付けられている自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)について、今後の方針が示されました。2026年4月に開催された第153回自賠責保険審議会の資料によると、同年11月1日から基準料率を全体平均で約6%(試算では6.2%)引き上げる改定が行われる見通しです。家計への負担増に見えますが、その背景には「被害者救済の仕組みを将来にわたってどう維持するか」という制度の持続可能性を巡る調整があります。

 今回の改定が必要となった最大の要因は、保険金支払いと保険料収入のミスマッチです。資料では、最新の料率検証に基づく2026契約年度の想定損害率を127.3%と予測しています。これは100円の保険料収入に対して127円を超える保険金を支払わなければならない状態であり、制度としての収支が慢性的な赤字に陥っていることを示しています。

 しかし、本来であれば収支を均衡させるために約9%程度の引き上げが必要な水準ですが、今回の改定率が約6%に抑えられたのは、過去に積み上がった「滞留資金」を戦略的に活用しているためです。2025年度末に約5,215億円に達すると見込まれるこの資金を、今後5年間の収支均衡期間で順次取り崩して保険金に充当することで、契約者の急激な負担増を回避する「クッション」としての役割を持たせています。

 自賠責保険は、長期的に保険料収入と保険金・経費の総額が均衡することを前提とした、いわば「ノーロス・ノープロフィット」の公共性の高い制度です。事故や医療費の動向によって損害率は変動しますが、一方で過去の余剰があればそれを補填に回す。今回の改定は、この「損害率」と「滞留資金」のバランスをにらみ、制度を破綻させないための安全装置として機能しているとみられます。

 また、今回の審議では料率の数字と並び、デジタル化による運営コストの削減についても重要な議論がなされました。  現在、損保各社が共同で利用する業界共同システム「One-JIBAI」や「s-JIBAI」の導入を進めており、非対面での契約・解約手続き、保険証明書のPDF交付、請求書類の電子化などが進んでいます。資料によれば、2026年3月時点で異動・解約の非対面手続き率はすでに40%を超える水準に達しており、業務の効率化が着実に進んでいます。

 これに合わせ、経費計算の基準も見直されました。IT化による「キャッシュレス普及率」や「非対面手続き率」が一定水準を超えた場合などに、経費水準の妥当性を定期的に検証する仕組みが新設されたのです。これは、IT化の成果を将来的に保険料の抑制へと還元していくための新しいサイクルが動き出したことを意味します。

 自賠責保険は単に「安ければ良い制度」ではなく、万が一の事故の際に被害者が確実に救済されるよう「破綻させてはならない制度」です。今回の改定は、物価や医療費の変化に対応して補償の土台を固めつつ、デジタル化によって制度自体をよりスリムで効率的なものへとアップデートしていく、進化のプロセスであると言えます。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)