社会保険料はなぜ下がらないのか 現役世代に集中する負担

2026年05月02日 17:14

画・リモートワーク意識も世代格差。40歳以下「リモート希望」半数超え。40歳以上では逆転、「通勤希望」増。

社会保険料はなぜ重いのか 給料から引かれる仕組み

今回のニュースのポイント

社会保険料は賃上げを上回るペースで実質的な負担が増加しており、少子高齢化に伴って給付は高齢層、負担は現役世代に集中する不均衡な構造が定着しています。医療費や介護費の自然増を保険料で自動的に埋める仕組みは負担増が実感しにくい構造であるとの指摘もあり、賃上げしても手取りが増えない可処分所得の伸び悩みが消費の大きな足かせとなっています。

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 近年、企業の賃上げ率は過去最高水準を記録していますが、多くの会社員からは手取りが増えた実感が乏しいといった指摘が見られます。その要因の一つは、額面給与の伸びを追い越す勢いで増加し続ける社会保険料にあります。家計調査や各種経済分析によれば、名目賃金が上がっても、税と社会保険料の負担増によって可処分所得が伸び悩むケースも見られます。賃上げで得た利益が保険料の増額分に相殺されるこの構造は、実効的な負担増と受け止められており、負担の偏りを指摘する見方もあります。

 給与明細に並ぶ社会保険料は、主に年金、医療、介護、雇用の4項目で構成されます。老後の財源となる厚生年金、日々の通院や入院を支える健康保険、40歳以上が加入する介護保険、それから失業時のセーフティネットである雇用保険です。これらは原則として労使折半となっており、会社員本人が負担する額と同額を企業側も支払っています。表面上、給与明細で見える本人負担分だけでも年収の15%前後に達しており、企業負担分を含めたトータルの保険料率はすでに3割近い水準に達しています。これは労働者の賃金コストを押し上げる要因の一つとなっています。

 社会保険料が下がりにくい背景には、日本の人口構造の変化があります。65歳以上人口が全体の約3割を占めるなか、団塊の世代がすべて75歳以上となる2025年問題を控え、医療・介護の給付費は増え続けています。厚生労働省の推計では、医療給付費は2025年度に約45兆円に達する見込みです。75歳以上の医療費は現役世代の4〜5倍とされるなか、社会保障給付総額のおおむね6割を保険料で賄う現行制度では、給付が増えれば自動的に保険料も引き上げられる設計になっています。このため、給付範囲を抜本的に見直さない限り、保険料の自然増を抑制することは困難であるとの見方が一般的です。

 現在の社会保障は、現役世代が納める保険料で高齢層の給付を支える「賦課方式」が基本ですが、少子化によって支え手が急減するなか、一人あたりの負担増が懸念されています。特に、後期高齢者医療を支える現役世代1人あたりの支援金負担は、制度導入以降、累積で大きく増加しており、直近の厚労省試算でも2020年度から2025年度までに約2〜3割増える見通しが示されています。また、企業負担の増大は実質的な賃金コストの増大と捉えられるため、企業が賃上げを慎重に判断する要因の一つにもなっています。

 消費税などの税率変更は国会で大きな議論になり国民の注視を浴びますが、社会保険料は保険料率の見直しや標準報酬月額の上限改定といった事務的な手続きで、負担増が実感しにくい構造のまま引き上げられてきました。国民負担率、すなわち所得に対する税と社会保険料の合計は、1980年代の30%台から上昇し、直近では46%台に達しています。給与から自動的に引かれるため負担増が目立ちにくいとの見方もあり、これが一部で「見えない増税」と評されるゆえんです。

 可処分所得の伸び悩みは、個人の消費意欲に影響を与えていると分析されています。名目上の賃金が増えても、将来への不安や手元の現金が増えない実感から家計は慎重な姿勢を強めており、これが内需の停滞を招き、経済成長を阻害するという悪循環につながる可能性が指摘されています。今後の議論の焦点は、年齢に関わらず資産や所得に応じて負担する応能負担の徹底です。高齢者であっても余裕がある層には現役並みの負担を求めるなど、負担の再配分が議論の対象となっています。

 社会保険料をめぐる課題は、単に負担の高さにとどまりません。高齢化のコストを現役世代が支え続ける現在の設計が、次世代の活力や経済の健全な循環に影響を与えているとの指摘があります。賃上げという経済の好循環を確かなものにするためにも、社会保障制度を世代間で納得感のある負担構造へ再構築することが、重要な政策課題として議論が続いています。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)