担保は「事業」へ 譲渡担保法が変える金融構造

2026年05月04日 12:27

画・円安、「減益見込み」3社に1社。原材料高騰、価格転嫁追いつかず。

銀行は何を担保に貸すのか 新・譲渡担保法の意味

今回のニュースのポイント

2025年5月30日に成立した「新しい譲渡担保法」は、2027年12月までに施行されます。在庫や売掛金などの動産・債権を対象とする譲渡担保契約のルールを体系的に明文化する初の法律と位置づけられています。不動産や個人保証に依存してきた従来の融資から、将来発生するキャッシュフローの源泉となる資産群、すなわち「事業そのもの」を評価する金融構造への転換が進む可能性が指摘されています。

本文

 企業はこれまで「何を担保にお金を借りてきたのか」。その前提が現在、大きな転換点を迎えています。2025年5月30日に成立し、同年6月6日に公布された「新しい譲渡担保法(正式名称:譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律)」は、公布から2年6か月以内、すなわち2027年12月までに施行される見込みです。同法は、在庫や売掛金などの動産・債権を対象とする譲渡担保・所有権留保契約のルールを体系的に明文化する初の法律とされています。一見すると専門的な制度改正ですが、その本質は、金融機関が企業に対して「何を評価してお金を貸すのか」という、日本の信用の仕組みそのものの転換にあります。

 今回の法整備の柱は、これまで慣習や判例法理に依存してきた「譲渡担保」について、契約の効力や実行方法、倒産時の扱いなどを条文として整理・明確化することです。譲渡担保とは、在庫や設備、売掛金などの名義をいったん債権者に移転し、担保とする仕組みです。企業は資産を使い続けながら資金調達ができるため、特に製造業や流通業で重宝されてきました。これまでは、集合動産・集合債権の登記制度はあったものの必ずしも十分に活用されておらず、第三者から権利関係が見えにくい、あるいは倒産時の優先順位を巡り紛争になりやすいといった課題が指摘されてきました。新法によってこれらのルールが安定すれば、金融機関にとって動産・債権が「計算可能な担保」へと進化することになります。

 この見直しの背景にあるのは、日本の金融構造において長年課題とされてきた「不動産・個人保証への偏重」です。従来、日本の中小企業融資は不動産担保と経営者保証に大きく依存してきましたが、サービス業やIT、スタートアップの増加により、担保にできる不動産を持たない企業が急増しています。また、政府も「経営者保証に依存しない融資」への転換を強く掲げており、企業の将来性や事業そのものを評価する「事業性評価」に基づく金融への移行が喫緊の課題となっていました。

 さらに、2026年にはブランドや技術力といった無形資産を含めた事業全体を担保にできる「企業価値担保権」もスタートする予定で、金融業界は今、大きな制度転換の局面にあります。法改正の本質は、担保の対象が「固定的なモノ」から「動いている事業」へとシフトする点にあります。在庫や売掛金など、将来発生するキャッシュフローの源泉となる資産群を担保として活用しやすくなることは、金融機関が企業のビジネスモデルをこれまで以上に注視し、評価することを意味します。銀行にとっては「事業の質」を見極める目利き力が問われる「信用創造の仕組みの変化」と言い換えることができます。

 この変化は、特に中小企業にとって大きな意味を持ちます。不動産を持たない企業でも、保有する在庫や将来の収益力をもとに資金を調達できる道が開かれるためです。一方で、今後は、決算書だけでなく事業の中身そのものが、資金調達の成否を左右する場面が増えそうです。担保設定の「見える化」が進むことで、企業側の透明性がより強く求められることになります。

 今後の焦点は、この法的枠組みがどこまで実務に浸透するかです。施行までには約2年半の助走期間がありますが、金融機関が従来の審査手法をどこまで脱却できるか、そして企業側が自社の事業価値をどれだけ透明性高く示せるかが勝負となります。しばらくは慎重に動向を見極める動きも予想されますが、長期的には、担保のあり方そのものが変化していく可能性が高いとみられます。

 今回の法改正は、単なる担保ルールの見直しではありません。企業が「何を価値として評価されるのか」、そして金融機関が「何を根拠に資金を供給するのか」という、日本経済の根幹に関わる地殻変動です。不動産や個人保証から、企業の事業価値そのものへ。この転換が、日本の中小企業やスタートアップの成長をどこまで加速させるのか、その成否が問われています。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)