日本人は食品表示の“何”を見ているのか 消費者庁調査で見えた「食の不安」

2026年05月21日 16:18

画・2月の消費者態度、悪化に反転。雇用環境で大幅悪化の他、全ての指数でマイナス。

消費者庁が実施した食品表示に関する調査で、日本の消費者が食品購入時に最も重視しているのは「消費期限・賞味期限」であることが分かりました

今回のニュースのポイント

消費者庁が実施した食品表示に関する調査で、日本の消費者が食品購入時に最も重視しているのは「消費期限・賞味期限」であることが分かりました。一方で、「消費期限」と「賞味期限」の違いを正しく理解している人は半数程度にとどまっており、食品表示への関心の高さと制度理解のギャップも浮かび上がっています。調査からは、情報過多の時代に生きる現代人特有ともいえる、自己防衛のための「安心消費」の姿が見えてきます。

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 消費者庁が発表した「令和7年度食品表示に関する消費者意向調査報告書」は、日本の消費者が購買行動においていかに「目に見える安全」を求めているかを浮き彫りにしています。全国の15歳以上の一般消費者6,050サンプルを対象に実施された本調査によると、食品購入時に表示を参考にしている割合が最も高かったのは「消費期限又は賞味期限」で83.3%に達しました。次いで「保存方法」が71.2%、「使用されている原材料の産地(原料原産地)」が68.6%と続いています。

 この結果から構造を分析しますと、日本の消費者は購入の現場において、成分の優劣という前向きな選択以上に、まずは「食品が傷んでいないか」「安全に食べられるか」という衛生上のリスク回避を最優先にしている傾向が伺えます。これは、コンビニエンスストアやスーパーマーケットといった高度に管理された小売文化の定着や、梅雨・夏場における食中毒への強い警戒感、あるいは世帯の少人数化に伴う食品廃棄リスクの回避志向が、消費者の「鮮度信仰」とも言える行動様式を形作っている背景を反映しています。

 しかし、関心の高さに対して、実務的な制度理解が必ずしも追いついていないという「分かっているつもり」の危うさも同時に浮かび上がっています。加工食品に表示されている消費期限と賞味期限について、その「違いを知っている」と答えた人は78.7%と高い数値を記録しました。ところが、それぞれの正確な定義を尋ねる具体的な設問になりますと、正しい選択肢を選べた人の割合は、消費期限で53.7%、賞味期限で54.5%と、ともに半数程度へと急落します。

 この「認知と理解のギャップ」は、現代社会におけるフードロス問題の根底にある構造的課題を的確に説明しています。消費期限が「安全性に問題が生じない期限」であるのに対し、賞味期限はあくまで「品質(おいしさ)に問題が生じない期限」にすぎません。しかし、この両者を混同し、テレビやSNSの断片的な情報から「賞味期限を1日でも過ぎたら危険」と受け止めてしまう消費行動が根強く残っており、これが商業的な大量廃棄や家庭内での不要な廃棄を誘発する一因となっています。

 また、日本市場における「添加物」への視線も、科学的なファクトより不安心理が先行する感情化の傾向が見て取れます。食品購入時に添加物表示を参考にする人は53.0%と過半数を超えています。さらに「食品添加物は安全性の評価がされ、国に使用が認められたものである」という事実を知っている人も64.3%に上ります。その一方で、自由回答の要望欄を見ますと、「無添加の定義があいまいに感じる」「何が安全で何が危険なのか分かりにくい」といった記述が数多く並んでいます。つまり、安全性評価を経て制度運用されている仕組みは知識として知っていても、カタカナや化学物質名で記された複雑な添加物表示に直面した際、一般の消費者は「理解できないもの=リスク」と捉えてしまい、オーガニック市場の拡大や無添加ブームといった自己防衛的な購買に走る構造が見えてきます。

 さらに、「どこで生産されたか」という原産地表示への高い関心(68.6%)も、近年の世界的なインフレや地政学リスクとも無関係ではありません。近年の為替の円安進行による輸入食品の価格高騰や、過去に発生した一部の輸入食品を巡る信頼性の問題、さらには世界的な食料安全保障への懸念から、国内の消費者の間では「国産志向」がかつてないほど強まっています。多少の価格差であれば「安心の証明」として国産の表記を優先して買い求める、一種のリスク回避型消費が定着しつつあると言えます。

 こうした傾向は、遺伝子組換え表示に対する認知度の低さにも通底しています。遺伝子組換え食品について「知っている内容はひとつもない」と答えた人が35.6%と3割を超え、国の審査を経て安全性が確認されていることの認知も28.0%にとどまるなど、科学的な理解の浸透は決して十分とは言えません。しかし、よく分からないからこそ「リスクをゼロに抑えたい」という心理が働き、結果として可視化された明確な安全表示を求める動きが加速しています。

 現代における食品表示は、単に栄養成分や原材料という「情報を伝えるための制度」から、消費者が日々の生活の中で不安心理を和らげるための「安心を確認する装置」へと役割を変化させています。SNS時代において健康や安全に関する情報が錯綜する中、消費者は自己防衛のための判断材料として表示情報と対峙しています。今回の消費者庁の調査は、単なる行政データの取りまとめを超えて、日本人が何を頼りに「日々の食の安心」を買い求めているのかという、不安心理と向き合う消費社会の縮図を鮮やかに映し出しているのかもしれません。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)