今回のニュースのポイント
生成AIの普及で、データセンターやGPU向けの電力需要が急増しています。KDDIや楽天モバイルは省電力通信基盤の研究を進め、素材各社も冷却材や半導体材料強化へ動いています。AI競争はソフト開発だけでなく、電力、通信、冷却を含む“インフラ競争”へ広がり始めています。
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世界的な生成AI(人工知能)の普及とその裏側で進行するグラフィックスプロセッサ(GPU)の需要急増は、世界の産業構造に大きな変化をもたらしています。最先端AIの高度な演算処理を支えるハイパースケールデータセンター(DC)の建設競争が活発化する中、市場の関心事は「どれだけ優れたアルゴリズムを開発できるか」というソフトウェアの論理から、「演算に必要な電力をいかに確保し、効率化するか」という物理的なインフラの論理へと移行し始めました。AI競争の重心がソフトウェア開発から電力・インフラ確保へとフェーズを移す中、日本の通信大手や素材産業各社は、この新たな成長領域への投資を進めています。
このAIインフラの省電力化において、競合の枠を超えた大胆な共同開発に踏み切ったのがKDDIと楽天モバイルです。両社は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」に採択され、仮想化基地局(vRAN)と計算基盤を同時に最適制御する次世代通信インフラの開発を開始しました。データセンター内の大容量データ転送において電気処理を挟まない「GPUクラスタ間ネットワークの光化」や、機器全体を特殊な液体に浸す「液浸冷却」「水冷」技術などの確立により、2030年度までにデータセンターおよび無線アクセスネットワークにおける消費電力を約40%削減することを目指しています。Open RAN(オープンラン)化の流れにも対応しつつ、通信網のオープン化と強固なセキュリティを両立させるこの試みは、通信会社が単なる回線提供者から、AI時代のデータと電力を最適化する「AIインフラ運営企業」へと事業領域を広げつつあることを示しています。
同様のインフラ投資への傾斜は、ソフトバンクの戦略からも鮮明に見て取れます。直近の決算発表において同社は、従来の通信事業が成熟局面を迎える中、次の持続的成長の柱としてAIインフラ投資を本格化させる方針を明示しました。大規模なデータセンターの国内誘致や建設を進めるとともに、膨大な演算処理能力を持つGPUへの投資を継続。自社で最先端のAI基盤(プラットフォーム)を保有し、それを国内外の企業へ提供するビジネスモデルへの転換を進めています。通信会社としての安定したキャッシュフローを原資に、AI時代に最も需要が高まる計算資源と電力拠点を押さえる戦略は、通信業界全体の収益モデルが構造転換期にあることを明確に示しています。
AIブームがもたらす波及効果は、ITの世界を遥かに飛び越え、日本の製造業の強みである高機能素材産業をも巻き込んでいます。東レや三菱ケミカル、三井化学、日本触媒といった日本の化学・素材大手各社は、データセンターのサーバー向け高機能樹脂や、次世代半導体の製造工程に不可欠な最先端材料、さらには超高発熱となるAI向けGPUの熱を制御するための液浸冷却用液体(クーラント)や電池材料の開発・増産に動き出しています。AIの進化はデジタル空間の出来事と捉えられがちですが、それを物理的に稼働させるハードウェア、特に超並列演算を行うデータセンターの安定運用には、高度な物性制御が要求される素材産業の技術力が不可欠です。AIは日本の伝統的な製造業に新たな需要拡大要因をもたらす巨大な実需としての側面を強めています。
総じて、現代のAI競争はアプリケーション開発やインターフェースの優劣を競う段階を過ぎ、電力、送電網、次世代の再生可能エネルギーや原発再評価を含む電力供給体制、そして通信網、超高度な冷却技術、半導体材料にいたるすべての産業レイヤーが緊密に結合したインフラ競争へと発展しています。このすべてのインフラがつながる時代において、AI時代ではソフトウェア競争だけでなく、電力や冷却を含むインフラ運用能力が企業競争力を左右する可能性があります。ソフトウェアの覇権争いでは米巨大テック企業の後塵を拝した日本企業ですが、電力の効率化、超省電力通信、高機能な冷却・半導体素材といった物理インフラの領域には、長年培ってきた技術的アドバンテージと勝機が残されています。AI時代の勝敗を決める舞台がインフラへとシフトする中、日本企業の存在感は着実な高まりを見せ始めています。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)













