「優しくても辞める」時代へ 経団連報告書が示す若手育成の難しさ

2026年05月22日 06:17

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若年社員の活躍推進にあたって「課題を感じている」と回答した企業の割合は90%を超えています

今回のニュースのポイント

一般社団法人日本経済団体連合会(経団連)は、若年社員の活躍推進に関する報告書を公表しました。報告書によると、若年社員の活躍推進にあたって「課題を感じている」と回答した企業の割合は90%を超えています(「強く感じている」の36.2%と「やや感じている」の56.0%の合計)。本報告書は「リアリティ・ショック」や「成長機会の減少」など5つの構造課題を整理した上で、若年社員が特殊なのではなく、それを取り巻く企業の労働環境やマネジメントシステムの変化への対応が求められている実態を浮き彫りにしています。

本文
 まず大前提として、日本の労働市場において若手人材は極めて希少な資源へと変化しています。わが国の若年就業者数(35歳未満)は、1997年の2,154万人から減少の一途をたどり、2025年には1,731万人にまで落ち込みました。将来的にはさらなる減少が見込まれており、2040年には1,594万人にまで減少すると予測されています。

 こうした若年就業者の希少化を背景に、企業の新卒採用予定数の充足率は低下傾向にあり、民間調査によれば2026年卒の充足率は69.7%と過去最低を記録しています。もはや企業にとっては、優秀な若手を「採ればよい」時代は終わり、いかに自社に「定着させ、活躍してもらうか」という職場設計が重要な経営課題となっています。

 しかし、企業の切実な定着ニーズとは裏腹に、若手社員の離職傾向は根強く続いています。厚生労働省のデータによると、新規大学卒の就職後3年以内離職率は、過去30年間にわたりおおむね3割超の高い水準で推移しています。さらに、25〜34歳の転職希望者比率は23.5%に達しており、年齢階層別で最も高い水準となっています。かつてのような「一つの会社に長く所属し続ける」という前提は大きく変化し、若手社員にとって企業とは、自らのキャリアを形成し、実力を磨くための「通過点」としての意味合いが強まっていると言えます。

 こうした状況を巡り、世間では「今の若者は打たれ弱い」といった一律の世代論が語られがちですが、経団連の報告書はそうした安易な見方を慎重に否定しています。調査によれば、現在の若年社員の就労観や価値観は一様ではなく、「Z世代」という区分で一括りに捉えることは適切ではないと指摘しています。つまり、本質的な問題は、若者の性格や資質そのものではなく、企業を取り巻く労働環境の変化にあるという視点です。

 その環境変化を象徴する最も興味深いデータが、職場の“優しさ”と若手の不安の逆転現象です。近年の働き方改革の浸透により、20代正規職員の週平均労働時間は43.0時間(2017年)から40.6時間(2024年)に減少するなど、労働環境の改善は確実に進んでいます。しかし、職場を「ゆるい」と感じている若年社員は36.4%に上り、そのうち16.1%が「短期で退職したい」と回答しているのです。かつては「厳しい労働環境」が離職の主因でしたが、現代の若手は、自己成長の手応えが得られない「ゆるい環境」に直面した際にも、「このままでは他社で通用しなくなる」という強い危機感を抱き、職場を去る選択をしています。

 若手が真に求めているのは、単なる居心地の良さではなく、目に見える「成長実感」です。ところが実態として、仕事の実務を通じたOJTの指導を受けた若年社員の割合は60.4%(2015年)から55.8%(2024年)に減少し、「習得機会は全くなかった」との回答が22.8%に増加するなど、育成機会そのものが縮小しています。労働時間の短縮やハラスメントへの過度な警戒の結果、企業は「厳しく鍛える機会」や「適度な負荷となる業務の割り当て」を無意識に回避するようになり、それが皮肉にも若手の成長実感を得る機会を奪う結果を招いています。

 この構造の歪みは、現場の管理職の深い苦悩とも直結しています。課長級管理職への調査では、34.4%が「自分の頃と同じように育てられない」と答え、23.7%が「育てようと指導したことがハラスメントと思われないか不安」という迷いを抱えていることが示されています。これは若手個人の問題ではなく、従来の上意下達型の育成手法が見直しを迫られており、日本企業のマネジメントシステム全体がアップデートを迫られている現実を物語っています。

 これに対し経団連は、ありのままの負の情報も入社前に開示する「日本型RJP」や、実効性の高い多層的な人材育成、中長期の将来設計を促す「キャリア面談」、組織全体で多方向に支えるコミュニケーション(タテ・ヨコ・ナナメの関係)などの具体的なアプローチを提唱しています。

 人口減少期において、若手人材の定着率向上は最優先の経営課題です。企業に求められているのは、単に労働時間を減らすような表面的な改革ではなく、心理的安全性を担保しながらも、確かな成長実感と自律的なキャリア展望を両立できる高度な職場設計です。今回の報告書は、日本企業の「働かせ方改革」が、優しさを超えた「育てるインフラの再構築」という次なる段階へ突入したことを明確に示しています。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)