税務調査もデジタル時代へ 国税手続見直しが示す行政DXの転換点

2026年07月10日 14:21

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国税手続はデジタル化への対応を加速している。令和8年度税制改正では、電子取引や新たな資産形態の広がりを踏まえ、国税犯則調査手続や徴収制度の見直しが進められる。

今回のニュースのポイント

政府は令和8年度税制改正で、納税環境整備の一環として国税通則法などの見直しを行います。国税犯則調査手続では、これまで書面中心だった資料作成や証拠収集について、デジタル化への対応を進めます。また、暗号資産など新しい財産形態への徴収手続も整備され、AIや電子取引の普及といった経済活動の変化に合わせた税務行政への転換が進んでいます。

本文
 多くの人が「税制改正」と耳にすると、所得税や法人税、相続税の増減など、「自分がいくら税金を払うか」という点に目を向けがちです。しかし、近代税制においてそれと同等に重要となるのが、集めた税金を「どう管理し、どのように適正に徴収するか」という税務行政の仕組みです。国会で成立した令和8年度税制改正では、この「納税環境整備」の分野においても重要な見直しが行われました。これは単なる事務手続の変更に留まらず、日本の税務行政そのものが本格的なデジタル時代へと移行する決定的な転換点を示しています。

 これまで国税当局による犯則事件の調査は、膨大な「紙の書類」や「対面での手続き」を大前提として組み立てられていました。しかし現代のビジネス環境は、クラウド契約、電子商取引、スマート決済などの利用が広がっています。民間企業や個人の経済活動がこれほどデジタル化している中で、税務行政の仕組みだけが紙の前提に依存していては、巧妙化・高度化する取引の実態を正確に把握することは困難です。税務署側が電子データやオンライン上のやり取り、デジタル証拠に正面から適応していくことは、社会全体のDX(デジタルトランスフォーメーション)に伴う必然の要請といえます。

 特に今回の改正で象徴的なのが、悪質な税法違反などに対応する国税犯則調査手続の近代化です。かつての脱税や租税回避の調査といえば、現物の帳簿や紙の領収書、あるいは現金の流れを追うのが主たる手法でした。しかし、クラウド上に隠された取引データや暗号資産を用いた国際取引など、不正の形もデジタル空間へ広がっています。これに対応するため、改正では刑事手続のデジタル化(刑事訴訟法等改正)との整合性を図りつつ、従来の記録媒体の直接差押えを見直しました。オンライン経由で直接データの提供を求める「電磁的記録提供命令」等の新設など、電子証拠の確実な収集・保全に向けた手続の電子化・オンライン化への対応が進められています。

 一般の利用者や最先端のビジネスに携わる事業者にとって最も注目すべきなのが、暗号資産をはじめとする「新しいデジタル資産」に対する徴収制度の整備です。現在の経済社会では、従来の土地、預貯金、株式といった有形・無形の伝統的な財産だけでなく、電子的な財産価値(特定電子移転財産権など)が急拡大しています。これまでは、滞納者が取引所(暗号資産交換業者)を介さずに自ら管理するウォレット(自己管理型ウォレット)に資産を秘匿した場合、実効性のある差押えを行うことが実務上の大きな課題となっていました。今回の改正では、これら自己管理型のデジタル資産についても、徴収職員の管理下へ移転させることを可能にする仕組み(特定電子移転財産権の徴収手続)が整備され、不履行に対する適切な措置を設けることで、新たな資産形態を利用した徴収逃れへの対応力を高めています。

 このように推進される税務行政のDXは、手続きの迅速化や行政効率の向上、そして何よりも「広く公平に課税を行う」という大原則の実現において多大なメリットをもたらします。しかし、このデジタル化は単なる監視社会の強化であってはなりません。税務当局が国民のデジタルデータや暗号化された個人情報にアクセスする機会が増えるからこそ、それらの厳格なデータ管理や、プライバシーの保護、そして調査権限の適切な運用といった、制度設計の「透明性と信頼性」がこれまで以上に厳しく問われることになります。実際、今回の法律でも個人情報の保護に特に留意すべき旨が明記されており、利便性と厳格な統制の両立が図られています。

 社会全体の情報通信技術が高度化するなか、日本の税制は紙を前提とした古い時代から、新しいデジタル社会に対応した仕組みへと移行しつつあります。AIを用いた高度な経済分析や、国境を越える電子取引が一般化する未来において、税務行政のデジタル対応力は国の信頼性を左右するインフラそのものです。単なる徴税効率の追求に留まらず、変化する経済活動に即しながら、いかに「国民から正当に信頼される公平なデジタル税制」を築き上げられるか、今回の改正はその大きな一歩を踏み出したといえます。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)