「現金隠し」の時代は変わったのか 国税庁査察が追う新たな脱税手口

2026年06月28日 14:17

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国税庁本庁舎。令和7年度の査察概要では、SNSや海外取引を利用した脱税事案、消費税の不正受還付など、経済のデジタル化・グローバル化に伴う新たな不正手口への対応強化が示された。

今回のニュースのポイント

国税庁は令和7年度における「査察の概要」を公表し、検察庁への告発件数は82件、脱税総額(告発分)は84億円に上ったことを明らかにしました。今回の集計において特筆すべきは金額の多寡ではなく、悪質な脱税行為の舞台がインフルエンサーやイラストレーターといったソーシャルメディア領域へと急速にシフトしている実態です。海外口座を利用した資金隠匿や国庫金の詐取に等しい消費税の不正受還付など、経済のデジタル化とグローバル化に伴う不正手口の複雑化に対し、査察当局も国際連携やデータ分析を駆使した厳正な調査を強化しています。

■ 査察が追うのは「脱税額」より「脱税の変化」
 「脱税」という言葉から、多くの読者は巨額の現金を隠し持つオールドエコノミーの事業者を連想するかもしれません。しかし、国税庁が取りまとめた最新の査察事績は、経済社会情勢の変化に伴う不正手段の巧妙化・多様化を如実に示しています。

 令和7年度の査察調査によって検察庁へ告発された事案を精査すると、告発件数は82件、脱税総額は84億円、1件当たりの平均脱税額は1億200万円(加算税を含む)を記録しました。告発率は64.6%に達しており、一審判決が言い渡された80件のすべてにおいて有罪判決が下されるなど、査察当局は極めて高い実効性をもって刑事責任の追及を行っています。経済報道として注目すべき核心は、これらの数値の背後で進行している「脱税行為のデジタル化・ボーダーレス化」という構造変化にあります。

■ SNS時代は脱税の舞台も変えた
 本報告書の最大の特徴は、美容系インフルエンサーによる広告代理事業や、SNS等を利用して主に海外の顧客へイラストを販売していたイラストレーターなど、インターネットのプラットフォームを基盤として経済活動を行う個人・法人の摘発が相次いで前面に押し出されている点です。

 従来の現金商売とは異なり、デジタル空間における取引は多層的なネット広告収入、電子決済、オンラインでの海外直接販売など、その収益構造自体が多様化しています。今回の事例でも、事実のない架空の業務委託費を計上して法人税及び消費税を免れていたケースや、海外イベントでの販売収入を申告から意図的に除外して所得税を免れていた事案が告発されました。これらの事績は、個人の発信力やデジタルコンテンツが巨大な経済価値を生み出す現代において、個人の「帳簿なき所得」が査察当局の厳格な調査対象となっている実態を示しています。

■ 海外口座・架空取引…脱税は国境を越える
 経済のグローバル化の進展に伴い、資産の保有や運用の形態が複雑化する中、資産を海外へと巧妙に隠匿する国際事案に対しても、査察のメスは厳しく入れられています。令和7年度における国際事案の告発件数は17件を数えました。

 具体的な手口としては、人気の日用品を扱う輸入販売会社が海外の不正加担者と通謀し、海外法人に対する架空の輸入仕入れを計上して法人税を免れていたケースが挙げられます。さらに、営業コンサルタントを営む複数のグループ会社や防災システム開発会社が、架空仕入れ等によって捻出した不正資金の一部を海外預金として秘匿し、税を免れていた巧妙な事案も相次いで摘発されました。これら国境を越える資金の隠蔽に対して当局は、租税条約等に基づく外国税務当局等との情報交換制度を積極的に活用しています。これにより、「海外の口座や法人を経由させれば資金の足跡を隠せる」というこれまでの逃避ロジックは、実務的に通用しなくなっていることがうかがえます。

■ 「税金を払わない」から「税金を受け取る」不正へ
 もう一つ、マクロな観点から極めて悪質性が高いとして重点的な調査が執行されているのが、消費税の仕入税額控除制度を悪用した不正受還付事案です。これは本来収めるべき税金を免れるという消極的な脱税にとどまらず、虚偽のスキームを構築して国庫金そのものを直接詐取するという、極めて犯罪性の高い行為です 。令和7年度は12件の消費税不正受還付事案が告発されました。

 摘発された事例では、廃プラスチック等の再生資源を輸出する会社が、内容虚偽の見積書を作成し、過去に海外から取得した事業用の機械装置を国内事業者から過大な金額で取得したかのように装って課税仕入れを水増しし、不正に消費税の還付を受けていました。また、産業廃棄物処理会社が不正加担者に内容虚偽の見積書や請求書を作成させ、実在しない資産の取得を装って中間納付に係る還付を不正に受けていた事案も告発されています。消費税の還付制度という歪みを生みやすい実務上の盲点を突き、システムから公金を巻き上げようとする不正に対しては、市場の公正性を守る観点からも一段と厳しい監視の目が注がれています。

■ 査察もデジタル時代へ
 多種多様な業種業態で不正が多発する中、国税査察官による調査手法そのものもまた、アナログな対面調査からデジタルデータを主軸とする科学的解析へと大きく変化しています。

 脱税によって得られた不正資金は、依然として有価証券や高級クラブでの遊興費、ブランド品の購入、競馬や海外カジノなどのギャンブルに投じられる一方、近年ではアプリを通じた動画配信者への投げ銭やオンラインゲームへの過度な課金といった、デジタル空間での費消パターンが明確に確認されるようになりました。 不正資金や通帳の隠匿場所として「クローゼット内の紙袋」や「室内のスーツケース」といった古典的な現場が今なお発見される一方で、取引の実行そのものが電子的に記録され、そのログがネット空間に永続的に残る現代経済においては、電子的な取引記録や決済データの分析が脱税の輪郭を冷徹に浮き彫りにします。経済取引の複雑化・デジタル化は、そのまま査察当局における調査能力の高度化を強力に要請しているのです。

■ 「現金を隠せば大丈夫」の時代ではない
 今回の国税庁による査察事績の公表は、一罰百戒という本来の制度目的に違わず、新経済に生きるすべての事業者に対する強力なガバナンスのシグナルとして機能しています。一審判決において、複数の納税者に脱税スキームを利用させていた悪質な脱税指南グループの首謀者に対し、査察事件単独としては極めて重い懲役6年の実刑判決が下されたことは、市場における不正の連鎖を根絶しようとする司法と当局の確固たる意志の表れです。

 企業や個人事業主にとって重要なのは、巧妙な隠蔽手段や海外口座を盲信して「見つからない方法」を模索することではありません。あらゆる経済活動の痕跡が電子的な形で記録され、各国の税務当局が網の目のように連携を深める現在、適正な記帳と誠実な申告を維持することこそが、企業経営における最大かつ唯一のリスク管理にほかなりません。税務コンプライアンス(法令遵守)の徹底は、デジタル経済下で企業の社会的信頼を担保するための、最も強固な経営基盤としてその重要性をさらに高めていきそうです。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)