訪日客は減っても消費は維持 インバウンドは「量」から「質」の時代へ

2026年07月15日 18:50

画・京都の違法民泊の宿泊者数は修学旅行生並みの約110万人

訪日客数は減少した一方、1人当たり旅行支出の増加によりインバウンド消費は高水準を維持している。(写真:イメージ)

今回のニュースのポイント

観光庁が公表した2026年4~6月期のインバウンド消費動向調査(1次速報)によると、訪日外国人旅行消費額は2兆5,096億円となり、前年同期(2兆5,043億円)から0.2%増とほぼ横ばいの推移を維持しました。一方で、一般客の訪日外国人数は1,025.4万人と前年同期比で2.7%減少しています。それにもかかわらず消費総額が維持されたのは、1人当たり旅行支出が24万4,457円と前年同期比で3.3%増加したためです。市場構造においても、かつて圧倒的だった中国市場が後退し、米国や台湾が上位を占める多極化構造への転換がみられます。

■訪日客は減少、それでも消費額は維持

 観光立国を目指す日本市場に、これまでにない構造変化の兆しが現れています。2026年4~6月期のインバウンド消費動向調査によると、一般客ベースの訪日外国人数は1,025.4万人と、前年同期の約1,053万人から2.7%減少しました。観光地での混雑緩和などの観点からは一定の落ち着きを見せた形ですが、通常であれば市場規模の縮小につながる人数の減少にもかかわらず、旅行消費額は維持されています。

 同期間における訪日外国人旅行消費額は2兆5,096億円を記録し、前年同期の2兆5,043億円を上回る0.2%増を維持しました。このデータが示す最大の特徴は、「日本を訪れる人数は減ったが、日本で使われるお金は減っていない」という事実です。集客数の伸びだけで市場の好不調を判断する段階から移りつつあり、持続可能な観光経済の構築へと歩みを進めている状況がうかがえます。

■一人当たり24万円時代へ 「量」から「質」へ転換

 人数減少の中で消費総額を維持できた直接の原動力は、1人当たりの消費水準の向上にあります。同期の訪日外国人(一般客)1人当たり旅行支出は24万4,457円に達し、前年同期(23万6,536円)から3.3%上昇しました。

 四半期ごとの1人当たり旅行支出の推移を長期的に振り返ると、2023年1~3月期の21.1万円付近から、2024年4~6月期には23.9万円へと上昇。その後一時的な調整を挟みつつも、2026年4~6月期には24.4万円へと推移しています。この推移は、高付加価値旅行を重視する政策の方向性と整合的な動きと見ることができます。安価なツアーで大量に集客するモデルから、付加価値の高い体験や質の高いサービスによって1人当たりの滞在効果を高めていく、質を重視する市場への変化がうかがえます。

■中国頼みではない インバウンド市場は多極化へ

 今回の調査結果における大きな変化であり、本質とも言えるのが「インバウンド市場の多極化」です。かつて日本のインバウンド経済は、中国からの訪日客による購買力に依存する傾向がみられました。

 しかし、今回の国・地域別の消費額を見ると、その構成には大きな変化がみられます。最も消費額が大きかったのは米国の3,848億円(構成比15.3%、前年同期は3,546億円)で、次いで台湾が3,639億円(構成比14.5%、前年同期は2,846億円)と続きました。前年同期に消費額5,064億円を記録していた中国は2,592億円(構成比10.3%)へと大きく減少し、3位に後退して、これに韓国の2,589億円(構成比10.3%)が僅差で並ぶ展開となっています。

 中国一極依存の構図は大きく変化し、欧米豪をはじめとする長距離市場や、台湾・韓国といったリピーターの多い近隣アジア市場など、複数の市場が日本経済を支える多極化した構造へ変化しています。これはインバウンド市場における市場の分散という観点から注目される変化です。

■消費の中身も変わった 「爆買い」から滞在型へ

 消費の質的転換は、旅行者が日本で何にお金を使っているかという費目別構成比からも明らかです。全体の消費内訳をみると、宿泊費が最も高い37.0%(9,278億円)を占めており、次いで買物代の26.8%(6,731億円)、飲食費の21.7%(5,454億円)の順となっています。

 前年同期と比較すると、全体の消費額が横ばいの中にあっても、飲食費(前年同期の5,257億円から5,454億円へ増加)や娯楽等サービス費(1,032億円から1,088億円へ増加)の構成比が上昇しています。かつて見られたような、モノ消費中心の消費構造から、日本に長く滞在し(宿泊費)、上質なグルメを堪能し(飲食費)、文化やアクティビティを知る(娯楽等サービス費)というコト消費・滞在型観光へのシフトがみられます。この滞在価値の重視へのシフトは、名所旧跡の観光に留まらないため、地方に眠る固有の文化や大自然、食文化とも相性がよく、地方観光との親和性も高いと考えられます。

■観光政策は「何人来たか」から「いくら使ったか」へ

 こうした市場の変化を背景に、国の観光戦略そのものも次のステージへと移行しつつあります。

 かつて中央省庁や各自治体のKPI(重要業績評価指標)は、訪日客数に偏りがちでした。しかし、急激な混雑(オーバーツーリズム)による住民生活への影響が懸念されるなか、政策の重点も「何人呼んだか」から、「いくら使ってもらったか(旅行消費額)」、そして「どれだけ長く滞在し、地域に深く貢献したか(1人当たり支出、宿泊日数、地域分散)」へと移りつつあります。

 量を追い求めて地域を疲弊させるのではなく、観光を持続可能な地域経済のインフラとして機能させるため、質的なインパクトを向上させる方向へと舵が切られています。今回のデータは、こうした方向性と整合的な結果となっています。

 最新のインバウンド消費動向調査は、訪日客数が微減する局面にあっても消費総額を維持できるという、日本観光の新たな強靭性を示しました。数だけを追い求める安価な大量集客の時代から、1人当たりの滞在価値を高めていく付加価値重視の時代へと、日本のインバウンド市場は新たな局面に入りつつあります。さらに、中国への過度な依存から抜け出し、米国や台湾など多様な市場に支えられる市場構造への変化は、今後のインバウンド政策を考える上での重要な指標として注目されます。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)