ここ10数年、地球温暖化によりエネルギー、水資源、生物多様性など、世界レベルで環境意識が高まりを見せている。日本国内においてもエコブームにより、「マイ箸」や「マイコップ」、「マイ爪楊枝」など、使い捨てではないエコ商品が市場に投入されているようだ。例えば、年間使用枚数が300億枚と言われていたレジ袋は、原料が原油であることから、有料化することで使用を控えようという動きが活発になってきたことで、エコバックを持ち歩く主婦層が一気に増え、これによりゴミの発生を抑えることができたという。これは、資源節約につながった顕著な一例と言える。
なかでもペットボトルのキャップ回収運動は、老若男女が容易に取り組むことができるエコ活動として認知度が高い。
回収されたキャップはリサイクル事業者により様々なプラスチック小物に加工され、再利用されているが、意外にも二輪車部品にもリサイクルされているというのだ。
この二輪車部品にリサイクルする技術を開発したのはヤマハ発動機だ。参入したきっかけとなったのは、同社の技術者が、このキャップを工業製品の材料に使用することで、環境負荷を軽減し、社会貢献にもつなげられるのではないか、と考えたことだったという。
同社では2005年頃から、一部の二輪車樹脂部品の製造に使う「バージンプラスチック材」を”100%再生プラスチック素材”に切り替えるための検討を始めていた。
”100%再生プラスチック素材”は、廃棄プラスチックなど数種類のリサイクル回収品を混合し、品質基準に適合する素材に再合成したもの。それまでは、共通の材料で作られた同種の部品の形状を変えて再利用することはあっても、種類や使用目的の全く違う廃棄プラスチック製品をリサイクルし、工業製品の原料に使用したという前例はなかったという。そのため、リサイクル回収品の洗浄や異物の除去など、初めて直面する課題を一つ一つクリアする必要があり、また、リサイクル回収品は、回収できる種類や量が不安定なため、様々なリサイクル品をできるだけ多く集める必要があった。
「コストや時間の制約がある中で、ペットボトルのキャップを材料の一つとして新たに採用するためには、そのために生じる様々な課題を乗り越えなければならなかった。でも、使えるものは資源として活かしたかった。」と担当の技術者は語る。
実際、二輪車部品の原料として使用するには、厳しい品質基準をクリアしなければならない。開発者は、すでに社内で実用化していた”100%再生プラスチック素材”の材料にペットボトルキャップを加えるため、1年以上の期間をかけ性能評価や、異物除去のための工程の見直し、樹脂部品の試作などを行ったという。結果、2011年2月、ASEAN地域のヤマハ発動機の二輪車製造工場で、ペットボトルのキャップを使用した “100%再生プラスチック素材”の使用を開始。この素材は、リヤフェンダー、チェーンケースなど二輪車の外装樹脂パーツの製造に使用され、現在ではASEAN地域にて製造・販売しているほぼ全てのヤマハ製二輪車に搭載されているという。リサイクル技術の発展により、あのキャップが驚く部分で活用されているのだ。
何かを生み出すには、それまで考ええなかった新しい発想や、それを実現する熱意が必要になってくるだろう。同社のように、社員一人ひとりが新しいことにチャレンジできる自由な職場環境と高い技術、そして柔軟な発想力を持つ企業が、新たな環境ビジネスを支えていくことになるだろう。